ずっと桜は灰色だった

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「あっ、同じクラスの、たしか……百瀬(ももせ)さん」 「……はい」 「最初、じいさんが座ってるかと思った」  場所が場所だしという意味のわからないフォローを入れつつ、まわりを見渡している。  転校してきたばかりで、話したことはなかった。いかにも暗いです、話しかけないでオーラを漂わせているから、すでにクラスで浮いているのだ。  だから、灰木くんから話しかけてきたことに、少し戸惑っている。 「うーん、いいとこ見つけたと思ったんだけどな。また別の場所探すかぁ」  がっかりしたような口調で、ため息混じり。気づけば、灰木くんの片手にはスケッチブックが握られていた。  もしかして、絵を描く場所を探していたの?  美術の作品も上手だったし、人付き合いが苦手そうなところも含めて、わたしと同類の人かもしれない。 「わたし、今日はもう帰るので。適当に使っていいよ。ここ、誰でも自由に入っていいとこだから」  リュックをひざへ置いたら、一人分のスペースが空いた。 「え、帰るの? なんで?」 「……なんでって」  正当な理由を考えていたら、遅いと言うかのように、灰木くんが隣へ座る。  狭い空間に、ふわりといい香りが漂ってきた。花のような優しい匂い。想像したことなどないけど、予想外だった。  クラスメイトたちの言う陰気なイメージとは、少し違う。 「人と話すの、苦手じゃない?」 「えー、別に? 普通に話すよ」 「学校だと、近寄りがたいオーラ出してるから」 「ああ……、まあそうゆう気分の日もあるよね。あと、人による」 「たしかに」  思わずうなずいてしまった。  帰るタイミングを逃して、浮かせた腰を再び下ろす。  数分が過ぎて、無言の時間が続いている。じっと前を見つめたまま、灰木くんは動かない。どうしたら正解なのか分からず、わたしも黙って座っている。  やっぱり理解不能な人だ。手汗を握りながら、居ても立っても居られなくて、小さく息を吸った。
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