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根井くんの憂鬱②
(なるほど……)
他にも数人が遊びに行ったと思っていたが、誰もその話をしていないので結局茎田しか行かなかったのだろう。それなら二人が急に仲良くなったのも頷ける。
しかし……
(顔、近すぎじゃね!?)
茎田の後ろは壁になっていて、花森はそんな茎田を壁ドンでもしているような体勢で見下ろしている。
しかも二人の顔の距離は15㎝ほどしか離れていない。誰かが花森の背中に突撃でもしようものならキスのハプニングでも起きてしまいそうな──
ドンッ
「あ」
ハプニングは、起きた。
「きゃーっ花森くん、ごめんね! 背中がぶつかっちゃったあ」
「大丈夫、気にしないで」
偶然花森にぶつかった女子は茎田の存在は気付いていないようだが、根井はばっちりとその瞬間を見てしまった。花森と茎田がキスをしたのを。
いや、それは事故だから別にいい。問題は、キスをしたあとの茎田の反応だった。
根井の知っている茎田は、こんなハプニングが起きた場合『うげえ、野郎なんかとキスしちまったよ!! 俺の唇が汚された!!』などと言いながら吐く真似をして大袈裟に騒ぎたてるような奴だった。
なのに今の茎田の反応は、顔を赤らめてうつむき、ひとさしゆびの第二関節を色っぽい角度に曲げて自らの唇に触れている。
(……オレハイマ、ナニヲミテルンダ??)
思わずモノローグもカタコトになった。
そういえば茎田は根井と話すとき、ことあるごとに花森を話題に出す。
悪口や噂話の類ではなく、『花森はかっこよくて羨ましい』だの『テスト期間中だけ脳みそ交換したい』だの、そういうバカみたいな話だ。
なのでいつも軽く聞き流していたが、そんな話ばかりするものだから茎田が花森に憧れていることは当然気付いていた。
逆に花森が茎田を羨ましがることは万に一つもありえないが、そういえば駄弁っているとき、茎田のくだらない話をいつも花森だけはちゃんと聞いてやっていた……ような気がする。
(あの二人ってもしや両想い……いやいや! 男同士だしな!? 花森は去年彼女がいたし、茎田に至っては『彼女欲しい』が口癖だし!)
しかしここ数日、茎田の『彼女ほし~!』というウザい口癖を聞いていないことに気付いた。
(ま、まさかカノジョが……じゃなくて、カレシができたのか!? いやいや……!)
頭を抱えて悶々としていると、茎田が根井のもとへやってきた。
花森はぶつかってきた女子と話しているため、暇になったのだろう。
「よー根井、その位置からじゃ今の見てたか? 俺と花森、事故キスしちゃってんの! マジ笑えるよな~!」
「お、おう……」
(見たよ。キスしたあとのおまえの恥らう乙女のような反応もな……)
「いやーマジでまいったわ。はははは」
「……」
(まいったって顔してねえぞ、おい)
二人の関係を確かめるべきか、否か。根井は同性愛に偏見はあるっちゃーあるが、ふたりは友達なので本当にそうなら一応形だけは祝福はしてやりたいと思うのだ。
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