花森くんのあれやこれ①

1/1
前へ
/29ページ
次へ

花森くんのあれやこれ①

一目惚れだった。 (……あ、かわいい。俺、こいつの顔好きだ) とびきり目を引く美形ではない。しかし、ひどく不細工なわけでもない。身長は高くもなく低くもない。勉強ができるわけでもなく、むしろ頭は悪い方。スポーツは得意らしいが、特定の部に入って結果を出しているわけでもない。 花森が一目惚れをしたのは、そんなこれといった特徴のない茎田というクラスメイトの男子だった。 * 自分が少し他人と違うと気付いたのは、多分中学生のとき。年頃になってもいっこうに女子に恋をすることができなくて、おかしいなと思った。 無駄に顔がいいせいで──自覚はあるが別にナルシストなわけではない──告白してくる女子は絶えなかったが、適当に付き合って数ヶ月で別れるということを繰り返していたら、とっかえひっかえする酷い奴だと噂が流れて告白してくる子は減っていった。 そっちから言いよって来ては『なんか違う』などと言って離れていくくせに、こっちばかりを悪者にするなんて、女とはなんて理不尽で勝手な生き物だろうと思った。 が、男子にまで嫌われてはかなわないので、無駄に誰かと付き合うことはやめた。 自分のことを好きだと言ってくれる子を自分も好きだなんてちっとも思えなかったが、付き合っていればそのうち好きになれるのかな、と思いながら付き合っていたが、そんな気持ちになれた子はひとりもいなかった。 そこで花森が出した結論は、自分には愛だの恋だのという感情が欠落している、ということだった。 真剣に誰かを好きになる気持ちが分からない。好きになれる気もしない。だけど性欲はある。それは適当にエロ本などを見て発散した。 恋ができなくとも、特に日常生活で不便に思うことはない。とりあえず周りと話を合わすために、童貞は卒業しておこう。 そう思って、ちょうど告白してきた女子と付き合ってそういう関係になった。その結果、愛なんかなくてもセックスはできるんだということが分かり、なんだか虚しくなってその子とも別れた。 彼女はいい子だったし、特に嫌いではなかったが、このまま自分と付き合っていたらいずれ彼女が不幸になると思ったので初めて自分から別れを告げた。 彼女は別れたくないと泣いて縋ったが、彼女の涙を見ても花森の心は全く動かなかった。 そして、気付けば高校を卒業する学年になっていた。成績は常に上位を保ってはいたが、部活にも入らず、ただ男友達と楽しくバカ騒ぎしただけの高校生活だったな──と早くも卒業したときのことを考えていた矢先。 ひとりのクラスメイトと目が合った。 (……ん?) 初めて同じクラスになる、顔も名前も知らない男子生徒だった。彼は花森と目が合ったあと、怪訝な顔をしてすぐに目を逸らした。が、何故か花森は目が離せなかった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加