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花森くんのあれやこれ②
(……かわいい。俺、こいつの顔好きだ)
今まで抱いたことのない不思議な感情に胸が高揚し、そのままじっと見ていたら、彼はもういちど花森の方にちらりと視線を寄せた。
花森がまだ自分を見ていることに気付くとおどろいたようだが、二度も自分の方から目を逸らすのは気まずいと思ったのか、わざと睨みつけるようにじっと見つめたあと、ニッと無邪気に笑ったのだ。
それだけ、だった。
それだけで、花森は完全に茎田に心を奪われた。
(……かわいい。えっ? かわいい!! なんだこの気持ち? あいつの名前、何だっけ!? つーか誰だっけ!?)
どうしても女は好きになれないので、じゃあ男ならどうだろうと考えたこともあった。
しかし今まで男を好きになったことはないので、自分が『そう』だとは思わなかった。
けれど相手が茎田ならば、たとえ女だったとしても好きになったのではないかと思った。
つまり自分は茎田にしか恋が出来ないのだ。だから今まで誰も好きになることが出来なかったのだ。
すべては茎田と恋に落ちるためだったのだ。『花』森と『茎』田だし、これはまさに運命の出逢いだ──などなど、花森の思春期というか中二病的な諸々は、17歳で爆裂開花した。
*
「……何ニヤニヤしてんだよ、スケベ」
「え? 茎田のこと考えてたけど?」
「やっぱりスケベだ」
共通の友達である根井を介して、茎田と仲良くなるのに時間はかからなかった。
色々あって付き合えることになったのは、ほんの数日前のこと。花森はこの世の春とばかりに青春を謳歌していた。
茎田はバカだからなんとかうまいこと言って付き合えないかなーと考え、両親が旅行に行っていないのをいいことに茎田を誘い出し──他に誰かがいれば別の日にリベンジするつもりだったが、どうやら神が味方してくれたようだ──本やネットの知識だけで勢いに任せて抱いた。
最後までできるとは思っていなかったが、茎田の反応があまりにも可愛くて途中で止まれなかったのが正直なところだ。
幸い気持ちを告げても茎田は嫌がらなかったし、受け入れてくれたと思ったのだが……。
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