茎田くんの悩み①

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茎田くんの悩み①

 そのときは、とんでもないことになった、と思った。  友人の花森の家に泊まり込みで遊びに行ったら、寝る前にあれやこれやと言いくるめられ、気付いたらなんと身体をゆるしてしまっていたのだ。  友達なのに、男同士なのに。    朝になって、遊びで抱かれたのだと思ってつい泣いてしまったけれど、どうやらそれは勘違いで、花森はちゃんと茎田のことが好きだったらしい。  茎田も前々から花森に憧れており、どうやらその気持ちは『好き』という気持ちとなんら変わりない類のものだと気付いた。(何せ、遊び相手にされたのが泣くほど悔しかったのだ)  そんなわけで、そのまま付き合うことになった。  花森は優しかった。  付き合う前も優しかったけれど──ケンカ友達のようなノリもあったが──自分のくだらない話を花森だけはちゃんと聞いてくれていたり、授業で分からないところがあったら馬鹿にしながらも嫌がらずに教えてくれたり、そういうさりげない優しさが今までもあった。  けれど、付き合ってからは違った。  優しいことには変わりないのだけれど、関係の名前が『友人』から『恋人』に変わった途端、昨日までの花森はいったいどこに行ってしまったのかと不思議に思うくらい、花森は茎田に対して甘すぎる人間に豹変した。  やや粗暴な口調は今までと変わらないけれど、なんというか──まず、視線が甘ったるい。 声に出さずとも見つめられるだけで、『大好きだ』と言われているようで、茎田は花森となかなかマトモに目を合わせられなくなった。  ほかにも、誰も見ていないのを見計らって教室で堂々とキスをしてきたり、友人達と昼食を食べているときに机の下でこっそりと手を繋いできたり。  そのたびに茎田は死ぬほどドキドキして、心臓が壊れそうになるのだった。  しかし、茎田にはどうしても分からないことがひとつあった。 (……花森は、いったい俺なんかのどこが好きなんだ?)  茎田は自分で云うのも悲しいのだが、花森のように特に目立って顔がいいわけではなく、頭がいいわけでもなく、とびきり性格がいいわけでもない。至って普通の、どこにでもいそうな平凡な男子高校生なのだ。  いや、どこにでもいるどころか平均よりも総合スペックは普通以下とすら思っている。認めたくはないが、客観的な事実として。  花森に優しくされたり、振り回されることに今まで経験したことのない幸せを感じつつも、何故好きになってもらえたのか全く分からない違和感が自分の中で同居しており、現在はひどく悩んでいるのだった。
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