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茎田くんの悩み③
昼休み、いつもの面子で集まって弁当を食べていた。茎田、花森、根井、草野、葉月の5人である。
クラス委員の葉月の席を中心に集まり、適当に空いている椅子を引っ張ってきて適当な場所を陣取る。もっとも花森は葉月の後ろの席で、根井は花森の隣の席なので遠くからやってくるのは茎田と草野の二人だけだ。
彼らは全員が特別仲がいいわけではないし、一人行動も全然平気な人種だが、ひとりぼっちで食べているとなにやら周りから気を遣われるため──特に教師や女子が気にするらしい──なんとなく集まっているのだった。
なので食事中に会話を楽しむわけではないし、集まるだけ集まって黙って過ごすこともある。(ちなみに普段はほとんど茎田が一人で喋っており、花森がそれを聞いてあげている。時々根井が突っ込む)
しかし今日は珍しく花森が一番に口を開き、茎田と草野に対して質問した。
「茎田と草野、さっきの休み時間ふたりでなに話してたんだ?」
「え!?」
「ああ……ぼくの読んでる本のタイトルは何って聞かれた」
過剰に反応した茎田の態度を誤魔化すように、草野はさらりと答えた。花森本人に聞けないことをわざわざ聞いてきたのだから、知られたくないだろうという草野の気遣いだ。
「ふーん……茎田、草野の読んでる本に興味とかあったのか?」
「えっ、えっと、うん。なんか、表紙が面白そうだったから!」
そんな草野に感謝しつつ、しかしその気遣いを一瞬でブチ壊すほど、誤魔化すのが下手な茎田であった。
「……ちなみに、何読んでたんだ?」
「三島由紀夫の『金閣寺』」
花森は茎田に質問したのだが、きっと答えられないだろうと察した草野が横から即答した。しかしあからさまにホッとした茎田を見て、少々呆れ顔になったのだった。
「面白そう、ねぇ……」
もはや茎田と草野が何かを隠しているのはバレバレだったが、花森はふうと溜息を吐くと、ここで聞き出すのは諦めたようだった。
何故か茎田の隣に座っている根井がソワソワしていて、落ち着かない。
「──なんだ根井、さっきからそわそわして。トイレならさっさと行けばいいだろう」
委員長の葉月がピカピカのメガネを光らせて、眉間に皺を寄せながら根井に言った。
「お、おう……じゃ、茎田付き合えよ」
「はあ~? いまどき連れションとか小学生かお前! つーか俺いまシッコしたくないんだけどぉ」
「いいから来いッ!!」
「は、はい」
何故か根井のテンションが怖くて、素直に返事をしてしまった茎田だった。
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