アキンボのレディジョー

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どことなく町がざわついている。 いつものような活気はなく、外を歩いている人たちは俯きがちだ。 「とにかく必要なものを買ってくるよ。情報も集める」 「あたしも探ってくる。一時別行動だ」 「え……大丈夫か?」 「大丈夫さ、すぐ店に戻る。待っててくれ」 「ああ……気をつけてな」 ジョーはクリスと別れてぶらぶらと歩く。 見つけた一軒の酒場の窓から顔を出すと、中に見覚えのある人間とガラの悪い連中が椅子に座っていた。 しばらくジョーが窓から見つめていると、男の1人が彼女に気づく。 うんざりしたような、しかし嬉しそうな表情で店を出てジョーと対面する。 「少し付き合って」 「ああ」 2人は建物の陰……日の当たらない場所に移動した。 互いに銃を抜く気はない。 人気のない暗い場所で立ち止まる。 「お前がここにいるなんてな、ジョー……俺を殺しに来たのか?」 「偶然さベグビー。君がモハメドの仲間なんて知らなかった」 「久しぶりに会えて嬉しいよ。元気だったか?」 「まぁそれなりに」 「10年前から変わらないなお前は。綺麗だよ」 「見え透いたお世辞はいいよ。もう私も35だ。腕も落ちてきてるし、なにより小じわが増えてきた」 「俺にはあの頃のままに見える……で?なんか用か?酒だったら奢るけど」 「君たちのボスはいつ頃ここに来る?」 「明日の早朝の予定だ。仲間に入りたいのか?」 「冗談言わないで。正直言うと君に失望してる。モハメドはクズだ」 「しょうがないだろ。1匹狼気取るには俺も歳をとりすぎた。生きるために泥水だって啜らないとな」 「昔の君はもっと格好良かった」 「悪人に格好なんてねぇよ。なあジョー……どうして俺の前から去った?」 ジョーはベグビーから目を逸らした。 2人の頭にあの頃の思い出が浮かび上がる。 仲間として、相棒として、恋人として過ごしていた時間が鮮明に映し出されたのだ。 「まだ正義の味方ごっこを続けてんのか?」 「そうさ。それがあたしの役目だからね」 「現実を見ろよ。お前が1人で頑張ったってたかが知れてる……俺たちはずっとならず者だ。人は変われない。お前だって俺と一緒にいたときはただの犯罪者だっただろ?」 「その通りだよ。だから罪を償いたい」 「償ってどうなる?こんな世の中だ、いつ死んでもおかしくない……俺たちみたいな人間は特にだ」 「君には分からないよ」 「まだ……気にしてんのか?子供を殺したこと」 ジョーは返事の代わりに強く唇を噛んだ。 1度も忘れたことのない悪夢…… ベグビーと組んでいた頃、強盗で誤って射殺してしまった小さな女の子の赤い血が10年経った今でも心にこびりついている。 「もうあんな思いは2度としたくない。だからあたしは戦ってるんだ」 「罪は洗い流せないぜ?」 「分かってる」 「そうか……じゃあモハメドも殺す気か?」 「ああ、必ずな」 ベグビーは虚ろな顔で息を吐いた。 目の前に敵がいるというのに、彼は銃に触らない。
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