アキンボのレディジョー

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「参ったな……」 荒野のど真ん中、建物もなく人もいない場所で男は立ち尽くしている。 手ぬぐいで汗を拭いて水を飲んでいると、前方から馬に乗った人影がこちらに近づいているのを発見した。 男に緊張が走る。 馬に積んでいるライフルに手を当てて、額に汗をつたわせた。 「……どうしたものか」 この世界、いつ死んでもおかしくない。 ましてや荒事などあまり縁のない生活を送っていた彼には、戦っても勝てる自信がないのだ。 無法者ではないことを祈りながら、男は片手を上げる。 友好的に振舞っているという合図である。 相手が手をあげなければ、危険信号だ。 男は生唾を飲む。 恐怖で軽い頭痛もしてきた。 しかし相手は手をあげた。 とりあえず安心だが、油断させて自分を襲う算段なのかもしれない。 男は手にしたライフルを握りしめて、人影の接近を待った。 「やあ……」 男が低い声をかけると、カウボーイハットをかぶった人物は馬の上から挨拶を返した。 「やあこんにちは。こんなところで何してるの?1人でいるなんて危ないよ」 穏やかな女の声だったことに、男は安心する。 しかし彼女の風貌が奇妙だったので疑問を抱いた。 「……君、ガンマンかい?」 「ああ。でも小綺麗で華奢だからって弱いわけじゃないよ?」 冗談っぽく女は言う。 男もその柔らかな態度に微笑んでしまった。 「クリスだ、よろしく」 「レディジョー。ジョーって呼んで。冗談みたいな名前だけど本名だ。けっこう私自身気に入ってる」 「ジョーさんか、確かに珍しいね」 「自己紹介が終わったところで銃から手を離してくれないかな?」 「おっと、ごめん。警戒してたんだ」 クリスは銃を握るのをやめて、両手を自由にする。 彼女の腰のホルスターに気づき、彼は銃を指さした。 「本当にガンマンなんだ」 「そう言ってるだろ」 「賞金稼ぎ?」 「そう」 「へぇ……危ないのによくやるね」 「この世界は悪人が多すぎる。誰かが減らさなくちゃいけない」 「正義の味方なんだね」 「そんなに立派なものじゃないよ。で君はどうしてここにいるの?馬に乗って気分転換?」 「そんなんじゃないよ。俺は牧場主でね、牛が逃げ出したから探してるんだ」 「なるほど、ここに来るまでで牛は見なかったな」 「そうか……じゃあ別の場所を探してみるよ」 「1人で探す気?危ないよ、もう日も暮れて来たし」 「そうだけど……うちはあまり金持ちじゃなくてね……1匹でも逃げると厳しいんだ」 「じゃああたしも探すよ」 「そこまでさせられない。君にはなんの関係もないんだから」 「遠慮するなって。流れ者はその瞬間を大事にしてる。君に協力するのもきっと神のお告げさ」 「そんなことはないと思うんだけど……ふふ、君変わってるって言われない?」 「たまにね……おっと、まずいな」 穏かだったジョーの目元がキリっと細まった。 口元にもすでに笑みはない。
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