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「どうしたんだい?」
「付いてきて」
ジョーは馬の腹を蹴って急いで走り出した。
戸惑うクリスもそれについていく。
しばらく走ると、ジョーは馬をとめて颯爽と地面に下りる。
「おいジョー、どうしたんだ?」
「……ついてきてるな」
「そりゃついてくるよ。君が俺にそう指示したんだろ?」
「違う。君のことじゃない」
ジョーは腕をピンと伸ばし、丘の上を指さした。
遠いのではっきり分からないが、クリスの目は馬に乗った5人のシルエットを確認する。
「……なにやってんだろうあんな場所で」
「よく今まで生きてこられたね。ちょっとお叱りの言葉を言いたいな」
「え……まさか敵?」
「うん」
「ああクソ!油断してた!」
「今さら慌ててもしょうがないよ。ほら馬からおりて」
クリスは言われた通りに馬からおりる。
腕を掴まれた彼はジョーにひっぱられて、大きな岩陰に座らされた。
「戦いになる。君も腹を決めろ」
「そんな……逃げようよ。ずっと逃げてればやつらも諦めるはずだ!」
「ただの無法者なら……それでいいんだけどね」
ジョーは双眼鏡で敵の姿をはっきりと確認し、「思った通り」と呟く。
「コルビ族だよ、馬じゃ勝てない。逃げるのは無理だね」
「コルビ族……嘘だろなんてことだ」
クリスは顔を真っ青にして絶望した。
コルビ族は決まった住処を持たない馬術に長けた民族だ。
その性質は残忍極まりなく、目をつけた相手を凄惨な拷問をしてから殺すことでこの地に住むもの全ての人間から恐れられている。
「俺は……まだ死ぬわけにはいかないんだ」
「あたしだって死ぬつもりはないよ。銃は使えるか?」
「そりゃ撃ち方くらいは知ってるけど……人を撃ったことはない」
「そうか」
「き、君は人を殺したことあるのか?」
「まあね。数えきれないほど殺したよ」
「じゃ、じゃあ希望はある!相手は5人だ!5人ならなんとか……」
「ふふふ、やつらが5人ぽっちで行動するかよ」
「え?」
クリスは恐る恐る岩から顔を出して、コルビ族を見た。
そして声にならない叫びを漏らす。
さっきまで5人だったのに、いつのまにか20人を越える大所帯になっていたから。
「な、な、なんで増えてるんだ!!」
「最初の5人は偵察部隊さ。合図を出して仲間と合流したんだろう」
「まったくなんて日だ!なんでよりによって俺たちの前に現れるんだよ!」
「やつらはどこにでも現れる。さっさと腰据えて家でも建てればいいのに」
「逃げよう!」
「だから逃げられないって」
「じゃあどうするんだ!?」
「少しは頭を使えよ。全員撃ち殺せばいい」
ニヤリとジョーは笑った。
こんな状況でも冷静を保ち笑う彼女に、クリスは少しの間見惚れてしまった。
コルビ族の1人が奇声をあげた。
それに続きほかの人間たちも蛮声をあげる。
戦いの合図だ。
彼らは馬を走らせて、ジョーとクリスに近づいてくる。
「ははは!楽しくなってきたなクリス!!」
「楽しくないよ!俺はどうすればいい!?」
「とりあえず自分とあたしに銃口を向けるな、なんならお天道様を狙っててもいい。とにかく弾を無駄に使わないで。近づいてきたやつだけ撃ってくれればいいよ」
「わ、わかった……ああおしっこ漏れそう」
「漏らしてもいいさ。最後に立ってるのはあたしたちだ」
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