真夜中

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真夜中

「おやすみ」  ママが私のオデコにキスをして部屋から出て行くと、そっとベッドから抜け出して準備を始めた。  いよいよ今日は決行日。音を立てないよう勉強机の引き出しを開けると、二重底から魔導書(グリモア)を取り出した。おじいちゃんが私に残してくれた骨董品店キャビネット・オブ・キュリオシティーズで見つけた本だ。その中でも私は召喚術に強く興味を惹かれ、13才になったら試してみようと練習を重ねてきた。  床のカーペットを巻いてゆくと、下から魔法陣が現れた。描くための素材の大半は、魔導書と同じ倉庫で見つけた。魔法陣が仄かに青く光っているのは配合が合っている証拠だ。  線や記号が消えてしまっていないか確かめると、私は魔法陣の外に立ち魔導書を構えた。栞をはさんだページを開くと、そこには発音記号を書き込んだ召喚呪文が書かれていた。何度も何度も暗唱できるくらい練習をした呪文だ。私は唇を舐め、小さく咳ばらいすると詠唱を始めた。  私の声に合わせ、徐々に魔法陣の光が強くなった。思わず目を奪われて詠唱が途切れそうになってしまう。ここまできて失敗したら魔法陣に吸い込まれるかもしれない。私は興奮を抑えて慎重に詠唱を続けた。  詠唱を終えた私は、じっと魔法陣の中を見ていた。その光は部屋の中を照らすまでになっているから成功のはずだ。何かが足りなかったのだろうかと思ったその時、青い光の中にポンと煙が上がった。そして、その中に全身黒ずくめで、赤いオリーブのような目と尖った耳をした影が、先っぽに鉤のある尻尾をユラユラとさせながら立っていた。その背丈は私の胸くらいだった。 「やった」  私は憧れていた悪魔(インプ)の召喚に成功した。
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