二ヶ月に一度のアイツ

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二ヶ月に一度のアイツ

 突然だが、俺には困った能力がある。チート級に強くて困るだとか、そんなものではない。本気(マジ)で困った能力だ。 「そろそろなんじゃねぇのぉ……!?」  俺は眉間にシワを寄せながら窓を開け、手に持っていたマグカップを外へ突きだした。  ポタッ。  一滴の雨粒が上手いことマグカップに収まる。ああ、またやってしまった。 「やあ、また会えたな!覚えてくれてっか?二ヶ月前に蒸発していった、水だぜ!」 「はぁ……。」  そう、俺の能力とは「水の声が聞こえる」というものだ。本音を言うと、自分でも幻覚じゃないかと思ってる。 「お前、俺の前に現れるようになって何年経つ?」 「えぇ?お前が十四歳の時からだし……ざっと二十年くらいかな!オレはこんなに潤い肌でピッチピチのままなのに、お前は随分とヨボヨボになったもんだよなぁ。」 「お前に肌なんてねぇだろ……というか、水のクセに潤うってのも意味がわからん。第一、二十年も俺に付きまとうなんてどうかしてるだろ。」  俺はどんな水とも話せるものの、水と再会することはまず無い。コイツが唯一だ。そして、二十年も付きまとってくる水もコイツだけ。ちなみに俺が話せるのは本当に水だけで、氷や水蒸気なんかはダメだ。しかし、例えばコーラのような水溶液とか、お茶や味噌汁に使われている水とは話せる。 「オレのいない二ヶ月はどうだった?」 「お前、毎回そこから話始めるよな……。別に普通だよ。」 「そうか?前みたいに、"水と話しているところを見られてフラれた"みたいな、面白い話はないのか?」 「人の不幸を面白がるな。」 「いやいや。お前ら人間にはわかんないだろうけど、オレらはこの地球をただただ循環するだけの人生、いや、水生(すいせい)なんだ。自分の意思で歩くことも出来ずに、ただ重力に従って地に降り立っては、姿を変えて天に昇る。そんなのを繰り返すんだ。だから、人間の特異な話の一つくらい聞きたくなっても、おかしくないだろ?」 「ん……それは……。」  ごもっともな話に口ごもっていると、「まあ本当は、お前の不幸話聞くのが大好きなだけだけどな!!」と言われた。 「凍らすぞ。」 「やめてくれよぉ!!冷凍なんてされたら、お前と話せなくなっちまうじゃねーの!!」 「だから言ってんだよ、この性悪ウォーター。」 「ひっでぇ話だ!まあオレだって程々に流されたいし、このままマグカップに閉じ込められるよかいいんだけどな、へへっ。」 「そんなことした日には、俺の精神がやられるっての……。お前にずっと話しかけられるなんて、地獄じゃん。」  昔もこんな風に、コップなどの容器に水を一滴とっては水と会話していた。兄弟はおろか友達もいなかった俺にとって、水は唯一の話し相手、だったが……最近は厄介なものだと思う。先程水が言っていたように、水と話せるこの能力のせいでフラれたり、変な目で見られたりとあまり良いことがないからだ。なので大人になってからは、水の声を無視することが多い……というかほとんど無視。でもどういう訳だか、コイツが雨として降ってくるタイミングや水道水として流れるタイミングがわかってしまい、わかった以上無視するのも目覚めが悪いと思って捕獲してしまうのだ。
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