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「騙していてごめんなさい」
マチは手榴弾の様なものを後ろに投げては、そう謝った。
「何を……騙してたの?」
日頃の運動不足で既に息が上がっている僕は、なす術なくマチの顔を見つめる。
「……私、AIなの。管理数値が高い子供を監視する為に、全国を回っていた……ある程度の期間が過ぎると、関係者の記憶を消して他の対象の監視に移る……それが私の役目だった」
「AI……監視?……いずれ僕をここに連れて来るためのに?」
「そう。……でも、リョウを守りたかった」
彼女は言葉を限ると、ぽつりぽつりと話し出す。
名前がない自分に名前を付けてくれた事。
いつも面白い事を教えてくれた事。
優しく接してくれた事。
「そして……それ以上に、リョウは私に愛を教えてくれました。……だからリョウがここに来た時に、守ってあげたかった」
「マチ……」
「出口まで案内します。……ここを出たら迷わず樹海に入って下さい……あそこは電波が届かないので、暫くは時間が稼げる筈です」
彼女は真っ直ぐ前を見ていた。
「マチは?……マチは一緒に来てくれないの?」
「私は政府が管理しているAIです……私が行動を共にしては、リョウを危険に晒してしまうでしょう」
ゆるゆると首を横に振ってそう言いながら微笑んだマチは、相変わらず可愛くて美しかった。
「危険でも構わない。……マチ、大好きだよ」
「リョウ……?」
「だから、どうせ死ぬなら……一緒に三途の川まで逃げよう」
負け犬の遠吠えでも何でも構わない。ニヤリと口角が上がった僕は、マチの手を引いて出口に向かう。
僕は犬だ。
一匹狼という名の、自由な犬だ。
─fin─
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