いろはにほへと ちりぬるを

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──吾輩は猫である。名前はまだ無い。  学生時代に熱を上げた小説になぞらえるなら、吾輩は人間である。名前は……名前は多分あったけど、とうに忘れてしまった。  今となっては番号で識別管理され、呼ばれることもなく埋もれてしまった名前は、自分の扱いの惨めさゆえか、僕の頭の片隅からも去ってしまった。  昔、人類が声高らかに叫んだ「人権」や「自由」という思想は既に息絶えて、代わりにAIが全てを分別する。  確かに少し無機質ではあるけれど、その電脳の主人は結局のところ人間だから、まだ完全に支配されている訳ではないと思う……多分。  そんな事をぼんやりと考えながら、先程から頭の上で喧しく騒いでいる目覚まし時計を止めた。 ──もう朝か……。  今日も、毎日変わらない社畜生活の幕開けである。
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