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明日は復活祭。町は飾り付けられてお祝いムードだけど、私たち姉妹は楽しい気分にはなれなかった。イースターにおろす用に近所のおばさんがくれた新しい服も着る気にはなれない。
なぜって、2年前にお母さんが天国に行っちゃって、私たちのために仕事を増やしたお父さんも病気になってしまったから。イエス・キリストは復活したけど、お母さんは復活しない。お父さんの病気だって、もう1週間も経つのに全然よくならない。
私たちはまだ小さくて、お仕事なんてできないし家のことさえギリギリ。お父さんの貯めていたお金で生活はできているけど、お父さんは毎日「お前たちの将来のためのお金を減らしてしまってごめんよ」って謝る。私たちはそんなこと気にしないで欲しいのに、お父さんはどうしても気になるみたい。
ぜぇぜぇ。お父さんの苦しそうな息の音を聞こえる。お母さんが旅立ってしまった時を思い出して泣きそうになるのを堪えながら、私たちは黙ってイースターエッグを青色に塗っている。子孫繁栄とか、成功とか、そういうのは何もいらない。私たちはただ、お父さんが元気になることだけを願った。
だから、町に買い物に行った時に聞いた噂に、私たちがすがりたくなったのも仕方なかったと思う。
「なぁ、知ってるか?妖精の卵の話」
「妖精の卵?」
「ああ。触るとたちまちどんな怪我でも病気でも治るんだってさ!」
「まじかよ!すげえ!」
「僕もそれ聞いた!しかも幸福が訪れるんでしょ?」
それは私たちが今いちばん必要としてる力だった。私は噂話をしていた人たちから詳しい話を聞き出して、早く妹のカエランにも知らせようと急いで家に帰った。
「カエラン!」
思わず家の扉を勢いよく開けて大きい声を出した。お父さんが寝てるかも知れない、すぐに口を両手で塞いだ。洗濯物を畳んでいたらしい妹が私を出迎える。息を切らしている私を見上げて珍しいものを見た顔で首をかしげる。
「どうしたの、ソフィア?」
「お父さんの病気、治るかも知れない……!」
水を飲んで呼吸を落ち着かせた私は、お父さんに聞こえない部屋でカエランに噂を教えた。
妖精の卵はイースターの真夜中12時にエライフィズの丘の頂上で、手を繋いで輪をつくって、星を描いた周りを反時計回りに12回まわると真ん中に現れるんだそう。持って帰るには土の上に置かなきゃいけないらしく、私たちはお父さんを心配させないように内緒で、玄関の外に置いてあった植木鉢の中身を土だけにした。
夕飯にパンとサラダを食べて、お父さんがまた寝たのを確認した私たちは、飲み物と植木鉢を入れたリュックを持って、近所の人に見つからないようにこっそりと家を出た。私たちの足で12時までに頂上に着くためにはもうギリギリの時間だった。
明かりの付いたリビングから近所の人たちの笑い声がする。中から見えないように窓のすぐ傍をかがんで通り、家と家の間はなるべく急いで歩いた。家がないところに出るまでは見つからないように慎重に動いて、すごく気持ちが疲れた。まあカエランは「スパイ映画みたい」って喜んでたけど。
エライフィズの丘の頂上を見上げて、ぎゅっとリュックの肩紐を握る。昼間には何度も来たことがある丘なのに、暗い中で見ると大きな魔物みたいで怖い。私はごくりと唾を飲み込んだ。
「行こ、ソフィア」
「……うん」
怖くなって震えてた私の手を握って、カエランが私を見つめてきた。私は妹のまっすぐな目に勇気をもらって頷き、丘を登り始めた。暗くて足元が見づらいし、昨日が雨だったからまだちょっと地面が湿っていてたまに滑る。転ばないように慎重に登っているせいでどうしても進みが遅くなってしまう。
「まだ時間、大丈夫、かな……」
私が息を切らしながら近くの木に掴まって呟くと、カエランがお父さんの懐中時計をライトで照らす。予定より時間がない。私は重くなってきた足をムリヤリ動かして丘を登る。カエランは私より小さい体でまだまだ元気そうだ。リュックを背負ってないとはいえ、少し余裕がありそうな妹に驚いた。
「ソフィア大丈夫?1回休憩して飲み物飲む?」
「ううん。もうちょっと頑張る。間に合わなかったら意味ないもん」
「わかった」
私の答えにうなずいたカエランは、先行して登って滑るところや木の根が出ているところを教えてくれる。3つも年下なのに、妹のカエランの方が私より体力がある。いつもはちょっと自分が情けなくて悔しいけど、今はそれが心強い。
もう少しで頂上という辺りで急にカエランが悲鳴を上げて止まった。視線の先を覗き込むとカエランの足元に蛇がいて、私たちをじっと見ている。私は木の枝を拾って、蛇が苦手なカエランの前に立って蛇に枝の先を向ける。
「しっしっ!あっちいけ!」
蛇は私の振る枝なんて少しも気にしてない素振りで頭を上げる。それからみるみるうちに大きくなって、綺麗な女の人の姿になった。手にはとても美味しそうな赤い林檎を持っていて、それを私たちに優しそうな笑顔で差し出す。
「お腹すいたろ、林檎はいかが?」
さっきまで怯えていたカエランが、差し出された林檎に手を伸ばそうとした。私はその手が林檎に届く前に慌てて手首を掴んで止めて、さっきまで蛇だったはずの女の人を睨む。
「いりません」
「甘くて美味しいよ」
「いりません!」
「みずみずしいよ」
「いりません!!」
蛇から女の人になったのもおかしいし、私たちキリスト教徒にとって蛇は悪いものの象徴だし、蛇が差し出す林檎は罪の果物だ。どう考えても食べてはいけないものだと思った。私がカエランを庇いながら全てキッパリ断ると、彼女は舌打ちして蛇に戻って去っていく。
私は妹に飲み物を渡しながらほっと息を吐いた。カエランはあの優しそうな顔に騙されてつい誘惑に負けただけで、操られたわけではなさそうだ。喉が渇いていたのか、ゴクゴクと一気に飲んだカエランが首をかしげる。
「ぷはーっ!……なんで林檎だめなの?」
「さっきまで蛇だった人が渡してくるものなんて林檎じゃなくてもだめでしょ」
「……そっか、あやしいね!」
言われて初めて気がついた、という顔でカエランがうなずいた。妹に助けられてばかりじゃなくて今度は私が助けになれて安心した。私も水分補給をしてから時間を確認する。時間がない。急いでリュックに飲み物をしまって、私たちは丘を駆け上がる。
走ったせいで私もカエランも何回も滑ったりつまずいたりして転んだけど、なんとか12時前に頂上にたどり着けた。飲み物を飲んだり息を整えたりしている私たちの前に、今度は大きなヤギが現れた。ヤギは大人の男の人くらい背が高くて、不気味に光る目でじっと私たちを見下ろしている。
「お嬢さんたち、なぞなぞ勝負をしよう。交互になぞなぞを出して、私か君たちか、どちらかだけが間違えたら負けだ」
ヤギは低く地鳴りのような声で喋った。私たちは手を取り合って小さくうなずく。拒否した方が怖い目に合う気がしたからだ。私たちがうなずいたのを見て、ヤギは不気味な笑い声を上げた。
「朝は4本、昼は2本、夕方は3本の足で歩く動物はなーんだ?」
「うーん……うーーん……」
ヤギの出したなぞなぞにカエランがうんうん唸った。でも私はこのなぞなぞを知っている。生まれてすぐはハイハイ、大きくなったら立って歩いて、年をとると杖をつく、人間のこと。私は唸る妹の様子を見て笑っているヤギを睨み付けた。
「答えは人間!」
「むっ」
私が答えを叫ぶと、ヤギは1歩あとずさりした。次はこっちの番。私はヤギに出すなぞなぞを考える。時間がない。なるべく難しいやつを出してすぐにこの勝負を終わらせないと妖精の卵をもらう儀式ができない。
「アルファベットの中で1番水を持ってるのはなーんだ?」
「答えはCだ」
考え込む私をよそに、カエランが問題を出してしまう。海のシーとアルファベットのシーが同じ音なのを利用したなぞなぞだけど、子どもでも簡単にわかるなぞなぞだ。ヤギにとっても簡単だったみたいですぐに答えられてしまう。私は思わず妹を睨んだ。
「なんでそんな簡単な問題出しちゃうの!?」
「簡単じゃないもん!」
「なぞなぞは私に任せてカエランは黙ってて!」
「ひどい!私だってなぞなぞできるもん!」
ついつい私たちは喧嘩をしてしまった。でも私はヤギが私たちの喧嘩を笑って見ているのを見て気がついた。きっとこのヤギは時間稼ぎがしたいんだ、って。その証拠に、ヤギの方からなぞなぞ勝負をしようと言ってきたのに、喧嘩を眺めるだけでいつまでも次の問題を出そうとしない。
「カエラン!次の問題は競争ね!早く答えた方が問題を出せるの!」
「いいよ!私の方が早いもん!ヤギさん早く次の問題!」
私は喧嘩中なことを使ってカエランを挑発した。こうすれば次の問題にいけるし、時間稼ぎをさせないで済む。妹のカエランより私の方が早く答えられるに決まってるし、そしたらすごく難しい問題を出して勝負を終わりにできるはず。私の考えがわかったのか、ヤギは舌打ちをしてから問題を出した。
「チッ……Tで始まってTで終わる、中にもTが入ってるものはなーんだ?」
「ティーポット!」
「くっ」
妹がなぞなぞを考える間もなく私は答えを叫んだ。Tと同じ発音の紅茶(tea)が入っている、Tで始まってTで終わるティーポット(teapot)が答えだ。ヤギがまたあとずさりした。
私が手加減せずに答えてしまったから、カエランが泣きそうになっている。でも今は妖精の卵の方が大事だ。カエランだってなぞなぞに気を取られて忘れてしまっているだけで、お父さんが治る方がいいに決まってる。私は泣き始めた妹を無視して問題を出す。
「"舟や家を作る大工よりももっと頑丈なものを作る奴"、だーれだ」
私はシェイクスピアの戯曲『ハムレット』を読んだときに墓掘りの場面で出てきたなぞなぞを出した。私にはまだちょっと難しくて全部は理解できなかったけど、このなぞなぞのところは覚えてる。今までお互いが出した問題よりはかなり難しいはず。私はドキドキしながらヤギの様子を見つめた。
ヤギはこれを知らなかったようで、低く唸りながら悩んでいる。私は勝てそうだと思って一瞬ほっとしたけど、このままなやみ続けられて時間稼ぎされるのも良くないと思って首を振った。
「早く答えて!今から5秒以内に答えなかったらあなたの負けってことにするから!」
私はそう叫んでカウントダウンを始めた。さっきまで泣いていたのにカエランも3から加わって、一緒にヤギを追い詰めていく。3、2、1、――。ヤギは慌てて答える。
「わ、わかった!絞首台を作る奴だろ!今まで何千人と使っても壊れない!」
判定と正解を求めてヤギとカエランの視線が私に突き刺さる。『ハムレット』の道化と同じ間違いをしたヤギに、私はにっこりと笑いかけた。それから胸の前で大きく両手でバッテンを作る。
「残念、不正解。"今度そう聞かれたら、墓掘りって答えな"。お墓は最後の審判の日までもつからお墓を掘る人が答えだよ」
「ぐぁっ!?」
私が答えの判定をすると、不正解だったヤギは大きくよろめいて、みるみるうちに小さくなって普通のヤギの大きさになった。メェ~。話すこともできなくなったみたいで、ヤギは普通のヤギと同じ声で鳴くと、私たちから逃げるように走り去っていった。私は思わず妹と顔を見合わせる。
「今度、なさそうだね」
「そうだね……」
カエランがヤギの去った方を見ながら呟き、私はしみじみうなずいた。あっという間に見えなくなったヤギの、悲しげな鳴き声だけが遠くから聞こえた。
こうしちゃいられないと時間を確認したら、なんともうあと1分で12時になるところだった。私は慌てて地面に星を描き、カエランと手をつないだ。私たちは目を合わせてうなずくと、星を踏まないように気をつけながら反時計回りにまわりはじめた。
「いーち、にー、さーん……」
私は回っている間ずっとお父さんのことを考えていた。カエランも真剣な顔をしていたからきっと同じ。私たちが12回まわり終えると、描いた星が光って、その光が辺り一面に広がった。光が通ったところに輝くオリーブの木が生える。
輝くオリーブの木でいっぱいになったエライフィズの丘はキラキラして綺麗で、私たちは手を繋いだままぼーっとしてしまった。
――カンッカンッ
足元から鉄を打つ音がした。その音で我に返った私たちが足元を見ると、光を帯びた青い卵が星の真ん中に浮かんでいた。大きさは意外と大きくて、鶏の卵よりふたまわり小さいくらい。私たちは顔を見合わせてうなずき、リュックから植木鉢を取り出して卵の下に置いた。すると、卵はゆっくり降りて植木鉢の土の中にひとりでに埋まっていった。
次の瞬間、さっきまで輝いていたオリーブの木が消えて辺りは真っ暗になってしまう。周りが何も見えなくなって私は何度かまばたきをした。カエランがつけてくれたライトを頼りに、卵が入った植木鉢を丁寧にリュックにしまう。
「……帰ろっか」
「うん」
リュックを背負って丘を下る。来るときよりもゆっくり、でもお父さんが起きる前には帰れるように、私たちは暗い斜面を少しずつ下っていく。
いつもならとっくに寝ている時間、丘を登って削られた体力、卵を手に入れられた安心感、その全てが眠気になって襲ってきた。ふわ、と思わずあくびが出た時、カエランの足が止まってしまう。
「ソフィアぁ、ねむいぃ……」
カエランが目をこすりながらその場に座り込んでしまった。私だって今すぐ寝たい。でも今寝たら絶対にお父さんが起きる時間に間に合わない。むしろお昼くらいまで寝てしまいそうだ。なんだか泣きたくなって、少し強くカエランの手を引っ張ってしまった。
「痛い!」
「あっ……ご、ごめん……」
引っ張られて立ち上がったカエランが私の手を振り払って睨んできた。やってしまった。カエランは私より小さいからとっくに限界のはずなのに。すぐに謝ったけどカエランは少し拗ねてしまったみたいで、かなり口数が減ってしまった。
それでもまた丘を下りはじめた私たちだったけど、丘を半分下ったくらいの時、またカエランが座り込んでしまう。今度は私ももう足が痛くてツラくて一緒に座り込む。ふたりで水分補給をして足元を眺める。
「足痛い」
「もう歩けない……」
思わず私が呟くとカエランは泣きながら弱音を吐いた。それにつられて私まで涙が出てくる。疲れて痛くて眠くて、そしたら暗いのも怖くなってきて、私たちは補給した水分を全部涙にするくらい泣いた。
声を上げて泣きじゃくったせいで余計に疲れたのか、気がついたらカエランは座ったまま寝てしまっていた。私も眠くて眠くて仕方なかったけど、お父さんが起きる前に帰らなきゃいけない。かと言って妹を置いてはいけないし、私はリュックを前に背負ってカエランをおんぶした。
私よりは小さいし、少しだけならおんぶすることも日頃からあるけど、丘を下るには重すぎて、私はまたちょっと泣きそうになった。ゆっくりゆっくり、カエランもリュックも落とさないように、今までで1番気をつけて歩く。
何度も休憩をしながらなんとか丘を下り、もう少しで丘を下りきる頃、家がある辺りのあっちこっちにライトが見えた。まだ皆が起きるには早い時間だし、家の灯りにしてはライトが動きまわっている。
「まさか……」
私はすごく嫌な予感がして、足の痛みも疲れも妹の重みも忘れて走り出す。途中、その揺れで起きたカエランも嫌な予感がしたのか、降りて一緒に走る。さっきまであんなに限界だったのに、走って走って走って家の近くまで辿り着いた。
「ソフィアー!!カエラーーン!!」
この間イースター用の服をくれた近所のおばさんが、ライトを持って私たちを探していた。遠くから他の大人たちの声も聞こえる。丘から見えたライトは私たちを探す大人たちだったみたいだ。私たちはおばさんの元へ駆けていった。
「おばさん!!」
「ソフィア!カエラン!どこに行ってたんだい!?大変だよ、お父さんが――」
おばさんが言い終わるより早く、私たちは家に向かって走りだした。お父さん、お父さん、死んじゃ嫌だ。大粒の涙を流しながら、私たちは勢いよく家の扉を開けてお父さんの部屋に入る。
「お父さん!!!」
お父さんは目が虚ろで、ひゅうひゅうとか細い呼吸をしていた。血を吐いたのか、枕元のシーツや服の胸元が赤い。お父さんが私たちの叫んだ声に反応して手を伸ばす。最期に私たちの頭を撫でてから目を覚まさなかったお母さんの姿が重なって、今日見た他の何よりも怖くなった。
怖くて怖くて動けなくなった私の背中で、リュックの中から丘で見たのと同じ光が洩れる。その光はまだ日の差していない部屋を明るく照らした。私はハッとしてリュックを降ろし、植木鉢を取り出す。
お医者様を押しのけて、お父さんの伸ばした手の近くに、カエランと一緒に植木鉢を持っていく。すると、植木鉢の土の中から光り輝く青い卵が出てきて、お父さんの手のひらのそばに浮かんだ。私たちは植木鉢を床に置いて、ふたりでお父さんの手の上から卵を握り、お父さんに卵を触らせた。
「妖精さんお願いします……神様……」
「おねがい……お父さんを連れていかないで……」
私たちが目を閉じて祈ると、卵の放つ光が強く眩しくなって、それから光がなくなった。もしかして失敗しちゃったんだろうか、そもそも治るなんて嘘だったのかも。恐る恐る目を開けてみると、顔色のよくなったお父さんが驚いた顔で私たちを見つめていた。
「いったい何が……急に体が楽になったぞ……?」
成功だ。噂は本当だったんだ。私たちは抱き合って飛び跳ねた。お父さんはもう光っていない青い卵と、喜ぶ私たちを交互に見て首をかしげた。それから体を起こして私たちをふたりまとめて抱きしめてくれた。
卵が放った強い光は外からも見えたらしく、おばさんが部屋に入ってきて、元気になったお父さんを見てひっくり返っていた。お父さんの病気が治って安心した私たちは、ひとしきり喜んだ後すぐに眠ってしまって、次の日の朝まで起きられなかった。
次の日、私たちは子どもだけで夜に外出したことをすごく怒られたけど、お父さんが元気になった嬉しさの方が大きかったから泣かなかった。お父さんはずっと寝たきりだったから筋肉が足りなくて、しばらくはリハビリが必要だってお医者様が言っていた。それでもちゃんとしたご飯を食べられるようになったし、呼吸も苦しそうじゃないし、何よりも私たちをいっぱい抱きしめてくれる。私もカエランも、それだけでとても幸せ。
全て夢だったんじゃないかと思うくらい不思議なことばっかりの夜だったけど、お父さんは確かに元気になっていて、抱きしめてくれるその力強さが夢じゃないと教えてくれる。こうして、私とカエランの春の大冒険は大成功を収めたのだった。
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