最後の雨

再会は突然に

悠の彼女、三浦雪は喫茶店で悠の到着を待っていた。
ガチャ……カランカランと店のドアが開いた。
息を切らしたずぶ濡れの悠が店内に入って来た。

「雪……ごめん、遅くなった」と息を切らした悠が言った。
「私はいいけど……悠、びしょ濡れじゃない。大丈夫？」と心配そうに雪が言った。
息を整えながら席に座った悠は店員が運んで来たグラスの水を飲み干すと言った。

「いや、閉店した店の軒下で雨宿りしたんだけど……この有り様だよ」と悠は雪に言った。
「風邪ひかないでね」と雪が言う。
「大丈夫だよ。雪、行こうか……」と言うと二人は喫茶店を出て行った。

悠は先程偶然会った綺麗な瞳をした女性（ひと）のことが頭から離れなかった。
そして、誰かもわからない女性（人）の横顔が忘れられなかった。

数日後、悠が通う大学の研究室、
教授の大野海斗。
異例の若さで大学教授まで昇りつめた彼。
大野教授は、『大人なイケメン教授』として
有名……。彼のゼミは人気があり、彼の講義はいつも講義室を生徒で埋め尽くす。

「真城君、これ、お願いできるか？」と大野教授が彼に分厚い資料を渡す。
「はい、わかりました。コピーをして封筒に入れて郵送しておきます」と悠が言った。
大野は悠の気さくな性格と、真面目さを気に入り
研究室によく呼んでは『愛弟子？』として彼を可愛がっていた。

大野は珈琲をカップに注ぐと真城の前に置いた。

「真城君、いつも悪いね。お礼といっても何なんだが今週末、私の家に飯を食いに来ないか？」
「教授のご自宅にですか？　行きます」と喜んだ顔で悠が言った。
「じゃあ、週末空けといてくれ」と大野が言った。
「わかりました、お邪魔します」と悠が言った。

週末の夕方、悠は大野教授のマンションにやって来た。
高級そうなラウンジを抜けてEVで10階に上がる。
インターフォンを鳴らすと、私服姿の大野が悠を出迎えた。
いつもワイシャツにネクタイ姿の大野であるが、今日は綿シャツを肘までまくり上げ、Gパン姿のラフな格好は訪れた悠の目に新鮮に映る。

室内に入ると、そこは大人の男性が住んでいる　
空間。
お洒落で、部屋の四隅にはさりげなく置いてある
観葉植物……。
悠は珍しそうに部屋中を見て回る。

彼らの後ろから女性の声がした。振り向くとお皿を数枚持った女性が立っていた。
「あっ！」と悠が驚いた。
悠の声に気づいた女性が言った。
「あの時の人だ」

二人の様子を見た大野が言った。
「君達、知り合いなのか？」

それを聞いた彼女が彼に言った。
「ほら、この前の雨の日にタオルを貸してくれた人だよ」

「そうか……この前の雨の日に彼女にタオルを貸してくれたのは真城君、君だったのか。凄い偶然だな」と大野が言った。

不思議そうな顔をしている悠に気が付いた大野が彼女を引き寄せると
「彼女、私のフィアンセの望月七星」と言った。
それを聞いた彼女が言った。

「改めまして……望月七星です。よろしく。
そして、その節はありがとう」と彼女が微笑んだ。

「こちらこそ、真城　悠です」と悠も彼女に挨拶を返した。

突然の再会に驚く悠……

大野と楽しそうに話をする彼女を見ながら、

悠はあの雨の日に見た、彼女の綺麗な瞳と、
彼女の瞳から目を逸らすことが出来なかった自分を思い出していた。