桜花 祭嫌いの青年と人柱少女

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 僕の名前は山際翔(やまぎわかける)。  僕が育ったこの桜花町では毎年の春、桜が咲き誇る季節に開催される祭がある。名は桜花祭、僕が幼稚園児から毎年に足を運び、迷子になって両親に迎えに来てもらったこともある。  小中学生の頃は友達と、高校生には初恋の子と手を繋ぎ、屋台が並ぶ神社を歩いた事は甘い思い出だ。桜が咲き誇る木々、神社の前で手を差しのべて告白した。場所、ムードは最高だ。絶対に成功すると自信を持った。 「ごめんなさい」  彼女は頭を下げ、返した。  彼女の返事に、僕は爆発した。そしてこの桜が、桜花祭が嫌いになった。  それから、十数年後の月日が流れる。  僕は結婚し、地元を離れて就職して家庭を築いていた。妻と10歳の息子と5歳の娘、目に入れても痛くない宝物だ。 「桜花祭か………」  晩飯後、僕はリビングに腰掛けてとあるチラシを眺める。 「あら、お祭り?」 「俺が育った地元で毎年の春に開かれる祭なんだ。懐かしいなって………」  僕は思い出に浸る。妻にはほろ苦い思い出を言ったら笑われたけど。  そして、僕は妻と子供達を連れて地元に戻る。町の景色はあの頃とは変わらず、神社に伸びる道には桜が咲き誇り、桜吹雪が空中にヒラヒラと舞う。 「あの頃とは変わらないな………」  僕は妻と手を繋ぎ、子供達と一緒に屋台が並ぶ道を歩いていた。ふと、変わらない景色を見て微笑む自分がいる。 「少し、トイレに言ってくる」  僕は神社の外れにある公衆トイレに足を運ぶ。少し飲み物を飲み過ぎたか、尿意が催す。  また、会えたね………。 「何だ?」  公衆トイレを出た所、声が聞こえた。  そして、桜吹雪が広がる道。導かれるように僕は声の方に足を運ぶ。 「これは………」  たどり着いた場所はとある広地。いや、廃墟と化した神社である。一言で言えば、忘れられた場所である。 「また、会えたね?」  桜吹雪がヒラヒラと広がる中、現れたのは着物姿の女性である。黒髪、容姿は10代前半の少女だ。 「え?」  少女の言葉に、理解が出来なかった。 「知っているよ、アナタの事」 「君は、何者なんだ?」 「私の名前は椿桜花(つばきおうか)。かつて、この町の為に身を生け贄にした儚き少女です」 「え?」  少女の言葉に、さらに戦慄した。 「ごめんなさい、驚かせてしまって。この町は大昔、疫病が発生して多くの死者がでたの。そして、疫病を鎮める為に人柱を出す事にしたの。それがワタシ」  人柱……と、少女の言葉に戦慄する僕。さらに少女は言う。 「この場所で生け贄となり、人柱により疫病が止み、そして桜が咲き誇るようになった。ちなみにこの桜花祭は、私を偲ぶ為に伝統の祭なのよ。この地中に埋められ、私は暗い意識の中で祈ったの。どうか疫病を食い止め、人々が豊かになれるようにって………」  少女の言葉に合わせるように、桜が舞う。その桜吹雪は何処か暖かく、懐かしいような雰囲気が漂わせる。すると少女はにっこりと言う。 「アナタの事は幼少の頃から知っています。小さい頃は迷子になって泣いている小さなアナタ、次第に成長につれて友達と一緒に祭りを訪れたり、さらに色っぽいハナシもありましたね。そしてアナタは町を離れて家庭を持ち、また桜花祭りに来てくださたね?」 「高校生の頃はあまり思い出したくはないけど………」  少女の今年に僕は頭をポリポリと苦笑い。あれ以来、祭りと言うのが苦手なり、軽くトラウマになる。 「けど、私は寂しいと思う時があります。この町で育った子供達は時間が経つことに成長し、独立して町を離れ、祭やこの桜花祭に来なくなり、忘れてしまうこと思うのです。そしてアナタにお願いがあります」 「お願い?」 「私を、この桜を。桜花祭をどうか忘れないでいて下さい」  少女は言葉を放つと同時に桜吹雪が広がる。そして僕が桜吹雪に顔を片手で塞ぎ、再び視線を戻すと少女はいなくなっていた。   「あれは何だったのだろう?」  僕はまるで、夢を見ていたかのような気持ちだ。少しぼんやりとする僕、あの現実を受け入れないままでいる。 「パパァ~~」  後ろから息子と娘が呼ぶ声。 「あ、すまん」  妻や子供達からは何処に言っていたの。と、咎められたが、あの現象は言わない事にする。 「桜が綺麗ね。こんな場所で、花見んてしたら景色独り占めね」  妻は桜景色を眺めながら髪をかき上げる。 「そうだ。写真を撮らないか?」  僕は提案する。  そして、僕達家族は桜の木の下に立ち、写真を撮影。  僕は忘れないでだろう。この町を、桜花祭を、この町を救うために命を捧げた椿桜花(つばきおうか)の事を………。  僕達の家族を、撮影した写真の中に写り、彼女が微笑みながら見守るように眺めている。
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