クラリネットの恋心

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どこからか音がした。 音が外れている…のにどこか気持ちの良い。 私はその音を逃さないように耳を済ませた。 よく聞こえない。 でもなんて、気持ちの良い音だろう。 私はこの時恋に落ちた。 いや、恋というかなんというか憧れに近いのかもしれない。 この音の名前は? ただのロングトーンなのに思わず聞き入ってしまった。 伸びやかな音は私の気持ちを表しているようで。 まるであの時の音みたい。 そう、クラリネットだ。 いつか吹けたらいいのに、とずっと憧れていた楽器。 私はその音を聞きながら、近くの紙と鉛筆でクラリネットを吹いている私を描いた。 ピーピーピー… 「あら、清川さん?」 誰かがベットに駆け寄ってくる。 あぁ、隣の人か。 いい音だよねこれ。 「清川さんっ!?誰かっ。心臓が止まっていますっ!!!」 何言ってるの? 私は……。 清川さんと呼ばれた女の人は、心臓の止まった音をクラリネットと重ね合わせて幸せに亡くなっていった。 完
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