たこ焼きは美味しい

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たこ焼きは美味しい

『“死にたい”ってことは“引越ししたい”ってことかもしれんなぁ』と叔父は言った。 「……」 定時連絡の電話で重たく打ち明けてしまったわたし。叔父は空き部屋案内をしてくれた。 『なあ、純恋(すみれ)。“飛び降りる”より“飛び込め”だぞぅ』 垂直に落ちるより並行移動の方が物体としてスムーズだ。そしたら傷も少ないからと叔父はのんびりと続けた。 『なあ、純恋。垂直の方が簡単だからひとは選びがち。しかし水平移動だって、誰かが引っ張ってくれて下にコロコロがついていれば、そこまで苦労はない。『死ぬ』という垂直移動を『引っ越し』という水平移動に置き換えてみないか?』 「うん……うん?」 『だいたい、自殺ってのは無理があんだよぅ。心が死にたがっても体は生きていたい。だから白血球が大活躍する。心臓止めないために四肢を切り離そうとする。 仕事なんか辞めちまえ。俺のとこに来いよぅ』 「……いく」 『いいこだ』 ……叔父をひと言で表現すると『白馬に乗ったサイコパス』だ。10個も違わない年齢で王子様のような顔立ちをしている。頭も良く、外面は素敵だ。 けれども普段は『このひと、ほんとーにダメだー』と言うくらい甘くてかわいい男。そしていざとなるといきなり頼りになる。いつもの緩さは別人だ。そして姪のわたしを溺愛している。 そんなわけでわたしは引っ越した……引っ越したんだけど…… 「はい?」
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