私は鮮やかな世界で生きている

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◇  白のシャツは私を慰める。  4歳くらいのころに家族で緋寒桜(ひかんざくら)を見に行ったことがある。そのときも白のブラウスを着ていた。  緋寒桜は私にとってはそれほどに心惹かれるものではなかった。  きつい色味が散らばっていて、瞳は驚いてすぐにそっぽを向いて山の木を見た。周囲は揃えて綺麗だねと言葉を交わしているばかりで気持ち悪く思った。両親は、顔をしかめるばかりの私の様子に、車酔いしたのだとか向こうを見てごらんだとか機嫌を伺うようにしながら連れ連れにした。  山の中腹のぐるりと花盛りの広場にやってきて、いよいよ我慢がならなかった。  湿った草の空気に集中して呼吸をしていた。しばらく降っていた雨に所々ぬかるんでいて、足元が悪かった。  ぬかるみを避けながらいくらか歩いてから、泥砂からふと顔を上げると、濃いピンク色が首から捥げ落ちて、地面に横たえたのを私は見た。  その重さに視線が惹かれた。  私はそれを追うようにして木の下に潜り込んで近寄って、しゃがんでからまだ生きている顔とじっと見つめ合った。  それから上を向いて、ぞっとした。  無数の派手な顔が私と横たえた首を見下ろしていた。  咄嗟に馬鹿にしているのだと私は怒り、衝動的に美しい顔を拾い上げてから花弁をプツンとちぎり取っては地面に投げつけた。簡単に崩れた5枚はそれぞれに弱々しく飛び散った。  血の気が消えて、がく片のみになった指先に爪が花びらのようだと思って、そうして残ったものは何もなく、心臓がどきどきとしているだけだった。  それからは、自分の白い袖元をじっと見つめた。白さが浮いたように見えて、それからボタンを見て、また白さを見た。帰るまでそうだったので、それから緋寒桜を見に行くことはなかった。  毎年、空模様は緋寒桜と予定を合わせかのように見頃に合わせて雲をかぶせるので、この時期にはいつも白の服を着ている。だから街中で開花をしているのを見つけると自分の白色にちらりと目を向ける。
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