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 十日間という長くも無ければ短くも無い期間はあっと言う間に過ぎた。むしろセレスにしてみれば怒濤の日々であった。  普段は温和で優しい司祭が朝から何やら様子がおかしくなり、それでもセレスに何か酷い言動が遭ったわけではないけれど、とにかくセレスの気は落ち着かない。そんな中、元から予定にあった相手の祈祷の時間以外はドレスの採寸やら何やらに時間を奪われた。 「本当なら一からお作りしたい所なんですが、さすがに時間が足りませんので今回は既存の物を聖女様のお身体に合わせ直しますね」  ドレスの採寸に来たのは王都でも有名な店舗の人間だった。セレスも名前だけなら知っている。貴族だけでなく、王族のドレスも仕立てる程の人気の店。現王妃の結婚式でのドレスもこの店の物と言う話だ。  そんな老舗のドレスなど一体幾らするのやら。既存の物を調整するだけだといっても到底セレスや教会に用意できる金額では無い。少しでも汚してしまったら、いや、それどころか破きでもしたら大変な事になると、セレスは試着の度に呼吸さえも止まる始末だった。  そしてこれがドレスだけでなく、当日履く靴、身を飾る宝石でも同じ事が繰り返されるのだからセレスはその日が終わる度に死に態である。  まあそのおかげで、シークのあの言葉を気にする余裕も無かったのだが。  残り少ない日数ですがそれまではどうぞよろしく、と言っておきながらそれ以降シークが教会を訪れる事は無かった。そう、アンネが帰った後に改めて姿を見せ、より一層セレスを混乱させる話を聞かせた以降は。 「ご気分でも?」  隣から涼やかな声が掛かる。セレスよりも少し高い位置にある深い緑の瞳には気遣わしげな色が宿っている。騎士服に身を包んではいるが、セレスよりも余程女性らしい体つきをしている彼女はヘルディナと名乗った。今日という、アンネの婚約披露の会場までセレスをエスコートする役だった。 「いえ、大丈夫です。こんな素敵なドレスを着たのが初めてなのでちょっと緊張しちゃって」 「よくお似合いですよセレス様」  本来は背中まであるという金色の髪は今は結い上げられている。そうして凜とした美しさを持つ相手から、にこやかな笑みと共に褒められては動悸の一つも上がるというものだ。ヒエッ、と飛び出そうになった叫びを懸命に堪え、セレスは小さな声で「ありがとうございます」とどうにか返した。
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