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「お仕事はいいんですか?」
長く平和の続く国とはいえ、こうも毎日教会に入り浸っていられる程に警邏隊は暇ではないだろうに。
「俺はほら、聖女サマをお守りするのが任務ですから」
「頼んでませんけど」
「頼まれてないもんなあ」
はは、と完全に馬鹿にした笑いをあげられ、セレスは聖女にあるまじき暴力の衝動に駆られる。渾身の力で彼の脇腹を突くが、鍛え上げられた肉体にセレスの細腕による突きなど無きに等しい。なんならセレスの方が腕を痛めそうなくらいだ。
「お、暴力反対」
「鍛錬です!」
「俺の身体を使ってんだなんていやらしいー」
「なにがですか!?」
「あー悪い悪かった聖女サマったらさすが聖女サマ通じねえかあ」
「馬鹿にされてるのだけは通じてますね」
「それは誤解だな。馬鹿にはしてない、からかってるだけ」
「同じことでは!?」
ああ言えばこう言う。祈りの場であるという事も忘れてセレスは声を荒げる。すると、その声に併せた様に教会の扉が大きな音を立てて開かれた。
「聖女さまーっっっ!!」
今し方セレスが加護を授けたばかりの少女が猛烈な勢いで駆けてくる。ギリギリの所で止まるのかと思いきや、そのまま勢いにのって飛び付いてくるものだから、セレスは「ひあっ」という間の抜けた悲鳴を上げるしかない。
「おっと」
ぶつかられた衝撃のままに後ろに引っ繰り返りそうになるが、青年が全身で受け止めてくれたおかげでセレスは少女を抱き留める事に専念する。
「あの」
どうしました、とセレスが問いかけるより速く、少女がきらっきらと瞳を輝かせて歓喜の声を上げた。
「すごいです聖女様のおかげです! 教会を出た途端、ロクデナシの婚約……元ですね、元婚約者がまんまと浮気相手と目の前にいたんですー!! どうやったって言い逃れできない現行犯! なので無事婚約破棄を突き付けることができました! ありがとうございます聖女様! これで心置きなく新しい恋に進むことが出来ます! 後日改めてお礼に伺いますね!!」
きゃあきゃあと少女はセレスに抱き付いたままそう叫ぶ。その背に「お嬢様」と入り口から気遣わしげな声がかかる。どうやら少女の家の従者の様だ。
「本当にありがとうございました聖女・セレス! 縁切り聖女様のご加護、家族はもちろん、友人知人にも広まるよう頑張ります!」
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