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「聖女サマえらくぶさいくな顔になってますよ」 「あなたがいるからですかね!」 「俺は聖女サマのその顔も大好きなんでご褒美でしかないですけど」  うわあ、とセレスは盛大に顔を顰める。 「しばらくお会いしない間により一層性格ねじ曲がってません? 前までは少なくともそんな風じゃなかったのに。なんですか忙しすぎて歪んだんですか? それとも隠す必要なくなったから地が出てるんです?」 「聖女サマこそより一層辛辣になってますね? まあ、理由は分かりますけど」  シークは気まずそうに頭を掻く。ん? とセレスは怪訝な顔でその様子を見つめる。彼のこんな表情は初めて見たかもしれない。いつもふてぶてしく、余裕に満ちた顔をしていたはずなのに。 「ちょっとですね……ようやく解禁されたもんだから浮かれてましたすみません。これまでの俺の言動からしたら、そりゃあからかい方を変えたのかって思っても当然です」 「え、違うんですか?」 「聖女サマの中で俺ってそんな下衆な認識だったんですか?」 「いえ、人のことからかって遊びたいからって、そんな口説いてるようなことを言う人じゃないと思ってたから、そんな風になってしまうくらいお仕事大変ですさんじゃったのかなって」 「ほんと無自覚凄いですね」  なにが? と問うてもシークは答えない。大きな掌で口元を隠す様にして、セレスを正面から見据える。その視線の圧にセレスは思わず身動ぎしてしまう。すると今度は緩んだ笑みが飛んできた。 「えっ、なんですかその顔」 「貴女が好きです、セレス」 「……え!?」 「俺と結婚してください」 「えっ!?」 「という、貴女を口説く事が解禁になったので口説きに来ました」 「え……うえええええええええ」 「すげえ嫌そうな声になってますよ聖女サマ」 「だって……いやだってそんな声も出ますよ!」  唐突にも程がある。喜びよりも先に困惑がセレスの中を駆け巡る。 「わたしをからかうにしたってそういうのは良くないですってば! わたしの話聞いてます!?」 「口説きに来たって言ってるじゃないですか。聖女サマこそ俺の話聞いてくださいよ」 「だってそんなこの焼き菓子どうぞ、みたいな感じで言われても」 「あ、そうだったこれホント美味いんでどうぞ? 聖女サマ好きでしょナッツ類の入ったの」 「大好きです! ってちがうそうじゃなくて」  一瞬気が逸れてしまったのが悔しい。セレスは焼き菓子に向きそうになる意識を目の前の相手へと引き戻す。シークはセレスを真っ直ぐに見つめたまま、これまでと同じく若干腹の立つ笑顔をしている。だが、その向けてくる視線がこれまでとは違う。そこに込められた熱を感じ取り、セレスの心臓がドクリと跳ねた。
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