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「喜んでもらえたら良いとは思っています……」 「アンネ様ご自身にとって喜ばしいことなら、それはわたしにとってもとても嬉しいことです。でも、もしそうでないのなら」  家のためだとか、貴族としての名誉だとか、そんな物の為にアンネが振り回されているかどうかというのがセレスにとって一番重要だ。じ、と正面から見詰めると、アンネは静かに首を横に振る。 「ありがとうセレス、わたくしは大丈夫。ええ、とても嬉しくて喜ばしい事なの」 「ほんとうに? アンネ様無理なさっていませんか?」 「していないわ。この婚約はわたくしも心から望んでの事よ」  そう言って笑うアンネの頬に薄く朱が刺す。嬉しくもあり、そして恥ずかしくもあるのだろう。美人のはにかみ笑いの直撃にセレスはまたしても悲鳴を上げた。 「貴女があまり多くの人のいる場に出たがらないのは重々承知しているの……けれど、婚約披露が終わればこれまでの様に頻繁にはここに来る事もできなくなるから……だから」 「わかりました大丈夫ですおまかせくださいアンネ様! たとえ頼まれなくてもアンネ様の晴れ舞台ですもん! 是が非でも参加させてください!!」  セレスは貴族社会のルールなど良く分からない。しかし、婚約の発表がわざわざあったり、そこにこうして客を招いたり、それらが終わってからは自由に身動きが取れなくなる、などといった事から相手が相当に身分が高いのだろうと推測はできる。  人の多い場にあまり出たくないというのは、この「縁切り聖女」という不名誉な呼び名が広まっているからだ。それにより気安く縁切りを頼まれたり、下手をすれば他人の縁切りまで望まれてしまう。聖女としての立場はあくまで縁結びであって縁切りではない。他人の、だなんて言語道断だ。だというのに、そんな奇跡をセレスに求める人間は少なくは無いのだ。そしてそれは身分が高くなればなるほどに増えていく。だから、そういった貴族が多く集まる場には極力出たくないのだが。 「本当に……? 無理は……しないで、と言いたいのだけれど、でもごめんなさい、どうしてもわたくしは貴女にも来て欲しいの」 「先程も言いましたけど、わたしもアンネ様の晴れ舞台、お祝いの場ならなにがあっても行きたいんです! いつ頃ですか? それまでにバッチリ準備しておきますね」 「十日後ですね」
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