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「どうぞあなたに、素敵なご縁がありますように」    暖かな陽の光が降り注ぐ聖コンティオラ教会の中で、静謐な少女の声が広がった。  慈愛の女神・マーヤは恋人達の縁を結び、家族を守る女神としてフェーネンダール国で古くから信仰されている。この教会ではその女神を奉っており、日に数回、聖女が祈りを捧げては悩みを抱えた信徒へ女神の祝福を与えていた。  セレスはそんな聖女の内の一人である。銀糸の様に細く長い髪を持ち、紺碧の空と同じ色の瞳を持つ。元々は捨て子で、地方の教会が運営する孤児院で育てられていたが、聖女の力が発現し、しばらく経ってからこの王都の教会へと移り住む事になった。  幼少期にあまり栄養のある物を食べられなかったせいもあり、推定される年の割には細身である。そのせいで、やたらと子ども扱いされがちなのが多少なりともセレスの劣等感を煽るのだが、今は儀式用のベールを頭からすっぽりと被り、白を基調とした祭服に身を包んでいるので気にせずに済んでいる。  そんな一人の人間としての葛藤を抱えつつ、今日もセレスは何度目かになる儀式を執り行い、不安に満ちた顔をしていた少女に女神の祝福を授けた。少女はパアッと顔を輝かせるとセレスに何度も礼を言い、そして小走りに外へと飛び出して行く。 「来た時は今にも死にそうな顔してたのにな」 「女神様の祝福のおかげです。これできっと彼女の恋は順風満帆ですよ」  セレスは少女の背を見送った後、ゆっくりと背後を振り返った。真っ直ぐ向いただけでは紺地の服しか目に入らないので、腹立たしく思いながらも顔を上へと向ける。まったくもって背が高すぎるのだ、この相手は。 「女神様の祝福の前に、聖女サマの呪……ご加護がありそうだけどなー」 「呪いって言いかけた!」 「ご加護ご加護」  一々腹が立つ言い方は彼の癖、だと思いたい。決して自分に対してだけこんな口調ではないはずだ。  セレスに対してニヤニヤとした表情を隠そうともしていないのは、警邏隊の制服に身を包んだ長身の青年だ。セレスは細身ではあるが、特段背が低いというわけではない。それなのに彼の前に立つと頭の天辺は彼の顎下辺りまでしか届かない。見上げた先にあるのは短くこざっぱりと纏められた鉄灰色の髪に、深く落ち着いた緑の瞳。整った顔立ちは常に自信に満ちているが、セレスにとってはふてぶてしい面構えにしか見えない。
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