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大切なものを失くさないようにしていたら、もっと大切な何かが手の平からこぼれていた。
そのことに気づいたときの絶望と落胆は、きっとそれを味わった人にしかわからないのだろう。
幼馴染のところへ走り去っていった次の週、彼は図書委員の仕事をサボった。
きっとこのまま二度と会うことはないんだろう。そんな私の予想に反して、その翌週、彼はいつもどおり放課後の図書室に顔を出した。
きっと最初は、私と顔を合わせるのが気まずくて、後ろめたくもあったんだろう。それでもこうしてまたここにやってきたのは、彼の根が真面目だからだ。そのことが手に取るようにわかってしまい、抱きしめていた愛おしさがちくちくとトゲを生やす。
「何かいいことあった?」
そうして何気なさを装いながら口にした私の言葉は、自分自身にも薄っぺらに聞こえた。
別に、と言いかけた彼が、手にしたハサミを置いて姿勢を正し、色々と話してくれた。
自分の気持ちを幼馴染に伝えられたこと。その子が遠くの大学に行かずに済みそうなこと。それから背中を押してくれた私に対するお礼。
要約しかできなかったのは、彼の一言一句が私にとってあまりにも重く、受け止められないほどに大きかったからだ。
「よかったね、うまくいきそうで。私、心配してたんだからね」
私はそう言うと、引き結びたい唇を持ち上げた。
いつもはいくらあっても足りないと思っていた放課後のひとときが、今日は信じられないほど長く感じた。
もやもやとした気持ちを抱えたまま送る日々。十七年間生きてきて、その年ほど冬休みが来るのを待ち遠しいと思ったことはなかった。
年内最後のホームルームを終えると、私はクラスメイトとの挨拶もそこそこに教室を立ち去った。
正門を目指すあいだに通りかかったグラウンド、大崎君がまた声をかけてくれたけど、私はわざと無視してしまった。
暗い影を引きずって、みじめさだけが心を覆った。
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