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年が明けて学校が始まる頃、私のどん底の心は自己嫌悪によって圧し潰されそうになっていた。
それでも人はどんな環境であっても図太く生きていくことができるのだろう。私は表面上は普段となんら変わりない高校生活を送ることができた。
というのも、彼への好意が抜けて心の中が空っぽになったおかげで、もっとどろどろとした感情を入れる余裕ができたのだ。
だけど平静を装っていられたのもしばらくのあいだだけだった。
日々の厳しかった寒さがなりをひそめ、南風が暖かさとともにそわそわと落ち着かない焦りを運んでくる年度末。私はふたたび図書委員の仕事に携わらなくてはならなかったのだ。
すっかり様変わりしてしまった感情を敢えて無視し、ときには日々の忙しさにかまけて本気で忘れさえしていたせいで、私は彼と対面したときの身の振り方をまったく考えていなかった。
だが結果として、それも杞憂に終わった。
というのも、新入生歓迎用の催しの準備は全体的な話し合いで終始して、放課後に少人数が残ってする作業も来年度から受験生になる私たちの学年は免除され、後輩たちが中心となって活動してくれることになったからだ。
私は彼と顔を合わせずに済んだことに安堵すると同時に、情けない気持ちにもなった。
結局私は、自分の思いも満足に伝えられないまま彼から離れていくことを選んでしまった。もっとも幼馴染とのこれからを見据えている彼に自分の気持ちを今更打ち明けたところで、きっと迷惑にしかならないだろう。
そうして心の手綱を握るような生活を送りながら、私はとうとう二年生の修了日を迎えた。
ほんの一年前は、彼とまた同じクラスになることを望んでいたというのに、いまはそれと正反対の気持ちだった。
これでいい。そう思いながらクラスメイトたちがいなくなった教室から窓の外を眺めていると、涙が一筋、私の頬を伝った。もう二人きりで会うこともなければ、放課後の図書室で他愛のないお喋りをすることもない。
きっと未練があったのだろう、人の気配を感じて、私は期待のこもった視線をつい教室の出入口に向けてしまった。そして相手が彼でないことを知って、あからさまに落胆した表情を浮かべてしまう自分を嫌悪した。
感情がドミノ倒しのように転々とするなか、大崎君がこちらに近づいてくる。
泣き顔を見られたことと、失礼な態度をとってしまったことでばつの悪さを感じた私は、頬杖をついて窓の外を見た。
「いいのかよ?」大崎君がそう訊ねてくる。
「何が?」そっぽを向いたまま、私は訊ね返した。
「今日でこのクラスも最後だろ。あいつに何か言うことないのかよ?」
「大崎君には関係ないよ」
「なくてもいいだろ。知ってるんだから」
「彼とのこと? どうして?」
「だって……ずっと見てたから、森戸のこと」
思わず振り返ると、暮れる夕陽のなかで大崎君の顔がそれ以上に真っ赤になっているのがわかった。
私はただ驚いていた。大崎君の言葉に聞き覚えがあったからだ。
他でもない。去年、私が図書室で幼馴染との関係に悩む彼に伝えたのとまったく同じだったからだ。
「いいの」私は言った。「もう、自分なりに気持ちは伝えたから……いま、それを思い出したよ。それより大崎君。見てたって、どういう意味?」
「みなまで言わすな」大崎君は頬を掻きながらそう答えた。
「今日、部活は?」
「いま訊くことか、それ?」
「だって、一年前は春の大会に向けて猛特訓だって言ってたから」
「覚えててくれたんだな」
目を丸くする大崎君に、私は頷いた。涙はもうすっかり乾いていた。
「さぼったよ」
「どうして?」
「森戸と話したくて」
「そう……」
「で、返事は聞かせてもらえないのか?」
「何が?」
「おまえな……」
「うそ、冗談。でも、ごめん。気持ちは嬉しいけど、いまはそういうこと考えられないかな」
「そっか」
「うん、ごめんね」
しばしの沈黙が訪れたが、私は不思議と居心地の悪さを感じなかった。
大崎君も同じような気持ちでいてくれているのかもしれない。口元がかすかに持ち上がっているのが見えた。
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