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森戸さん。俺、帰らなきゃ。
放課後の図書室、君はそう言って立ち上がった。
そんなことで謝らないでよ。ポップなんてまた書けばいいんだし、一人でやったほうが早く終わるから。
心がささくれだって、ついそんな嫌な考えをしてしまう。でも、ダメだ。
それに私に謝るのはそんなことじゃないし、君が本当に謝らなきゃいけない子はもっと他にいる。
「ほんと嫌な子だな、私って」
立ち去る君に聞こえないようにしたといえば、嘘になる。本当は立ち止まって、またこっちに戻ってきてほしかった。
でも、君は駆け出していった。私なんかよりもずっと大切な人のもとへ。
ありがとう。きっと心から、そう言い残して。
それからしばらくのあいだ、図書委員の居残り仕事でるポップ作りをするどころか、マーカーペンを持ち上げる気さえも起きなかった。紙の切れ端や文房具、参考のために書棚から引っ張り出した本で散らかった机の上に落としていた視線を、時折窓の外に向けることぐらいしかできなかった。
冬の日暮れはますます赤くなっていて、見おろせば、下校する生徒たちの姿が目立ちはじめた。
「行かなきゃな、私も」
独りきりの図書室、私のその決心を受け取ってくれる人は、誰もいなかった。
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