☆5 ほしのかたち

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☆5 ほしのかたち

蝋燭の灯だけの静かな夜 誰かの中に 本当の自分をみつける そんなことが たった少しの触れ合いの中で 起きるものなのだとは思いもよらなかった。 永く生きるのも悪くないと カミーユは満足そうに笑みをこぼした。 こんなにも穏やかな心でいられる そっとユリが休んでいた絨毯の上を手でなぞり カミーユはそこに身体を横たえて、胸の上で手を組んだ。 そしてゆっくりと夜の帳の降りてくるのを待った。 25970b97-60e3-4d62-bfa6-cb7f361ee8f0           #1 カミーユは、本名をカミーユ・ピサロという。 ピサロの出は、"空の属性"を持つ者が多いため教皇として浄化の異能を使い、『夜伽の儀』を執り行う職に就いている。 カミーユは、純粋に"空の属性"のみが発現し、容姿端麗で珍しいアッシュベージュの髪で生まれた為、その荘厳な印象から教皇として嘱望されて育ったものの、本人は女性に対する性的な欲求を感じず、子どもの頃から儀式そのものが嫌だった。 同族からも変人扱いされたカミーユは、誰も嫌がって行かない辺境の惑星スミスで、自ら望んで村おこしをする役割を担い、灼熱と氷結の狭間で生活を長く営んでいた。 ウィルコック村を立ち上げた時には、本当に貧しく器の価値となるような娘達は皆無であったが、だからこそカミーユは誰にも邪魔されることなく、のんびりと穏やかに、村を豊かにする努力に精力を注いだ。 かなりの年月を経て、その人望や類稀な知的能力が噂となり、本人の固辞にもかかわらず"ビアズリー帝国"のひとつの惑星"ピサロ"の大臣職兼務を言い渡され今日に至っていた。 子を成すようにと、折々に他人から言われたものだが誰ひとりとして女を抱く事なく、本を読み、星や花を愛でるなどして日々を過ごして明け暮れていた。 大分前に"帝都"から目をつけられた事を感じた時、すぐに帝王アラステアより撤退命令が出されていた。 にもかかわらず、貧しい人々の行く末を案じてできる限りの処置を尽くしていたら、このような時期になってしまった。 "帝都"からの訪問を受けると決まった時には、生命をかけ帝国を守る覚悟であったが、まさかユリのような女性が派遣されるとは…。 ユリと共に過ごした、本当に彼の人生のほんのわずかな時間… カミーユは異能を発現することも無く、素のままの自分でユリとひとつになった。 まるで母の胎内にいるかのような、自分の五感の全てが相手の五感と重なり合うような、肌がひとつになり溶け込むような、自分が無くなるような… カミーユがはじめて知った愛の行為だった。           #2 エドマンドが、ユリとフェードを帝都へと送り帰すカーゴの中は行きとは異なり、咳きひとつない静寂に満たされていた。 今回はゆっくりと惑星スミスから遠ざかっている。 惑星スミスをコクピットから眺めるユリの背に時空間移動開始の声を掛けようとして、エドマンドは声をかけずにそっと立ち去った。 その頬に静かに伝って光るものを見たからだった。 ユリは、別れ際にカミーユ村長から贈られた『マミラリア』という可愛らしい小さく白い砂漠に咲く花をその場で髪に飾り、透けるような白いドレス姿で丁寧にお辞儀をして 「心同じき者は、この花の如く香ることでしょう」 そう言葉を残して、ユリは一度もカミーユを振り返ることなく直ぐにコクピットへと向かったのだった。 惑星スミスが小さく見えなくなってから、ゆっくりとエドマンドは時空間移動を開始した。 短い滞在であったが、何か結論が出たのであろう。 エドマンドはカミーユに任せておけば問題ないと全幅の信頼を寄せていたので、悩むことはしなかった。 ユリとカミーユの話し合いがどうなったのか、一晩中戦い続けて体力の限界で倒れ込むように勝負がつかず終わったエドマンドとフェードは、どちらも出発直前まで爆睡していた為に聞くチャンスもない慌ただしい出立となってしまったからだった。 さらにフェードは、ユリから休んで良いと言われたのをよいことに、船に乗り込んだとたんカーゴの自室で緊張を解いて再び眠りこけてしまったようだった。           #3 ユリは"帝都"に戻り、すぐに報告書を陛下に届けたあと、久しぶりに宮殿の東にある『ミルクウィズ』の森へとつながる美しい道を歩いていた。 背の高い木の柔らかな緑の葉の陰に、小さな白い花が咲き始めていた。 さらりとした風が、木々の間をすり抜けて空の蒼さに溶けてゆくように感じる爽やかな午後だった。 ゆっくりと歩くユリの歩調に合わせるように、いつの間にか隣りにロバートが肩を並べていた。 「お疲れさま」 「ただいま」 ユリがにっこりとロバートに微笑む。 ロバートはユリの手をとると、いつものように、あとは何も語らずに、景色を楽しみながらゆったりと歩いて行くのだった。                     #4 ユリ達が惑星スミスを去るとほとんど時を移さず、その小さな小さな惑星は、消滅が確認された。 遠くからは閃光が短く走り消え去ると、あとは小さなキラキラと光るチリが広がり、闇の帳に堕ちていったようにみえたという。 帝都人街ジェシーは、その時すでに裳抜けの殻であり、また多くの移住希望の娘達は、ほとんど惑星ピサロへと移っていたという。 それでも残された現地の多くの民は、苦しむ間も無く星屑となった。 そして"ビアズリー人"で共に亡くなったのはただひとり、村長カミーユだけだったという。
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