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☆1 まどう
忙し過ぎる!
忙し過ぎる!!
忙し過ぎる!!!
何だか猛然と腹立たしいわ
上手くいってないわけじゃない
順調に仕事は終えている
ミスはない、完璧だ!
なのに…なのに…
何だこの停滞した状況は⁈
この眉目秀麗かつ才色兼備な私が
眉間に皺なんて、作ってたまるもんですか!
自分自身に悪態をつきながら、ビシッと紺地に金糸の美しい紋章で飾られた襟元に、美しい身体のラインを強調したデザインの文官服へとブレードを形態変更させて着替えると、ユリは尖った7cmヒールの先端をまだ寝ている男の腹に突き刺した。
#1
"帝都"の医療班がある棟へと、朝から出向く羽目になったロバートは治療を受けながら、ケンに連絡をしていた。
「まじ、あり得なくない?…痛っ!いてて。本気で踏むか?腹だぞ腹?」
「ユリの機嫌を損ねたお前が悪いんだろ。そもそもせっかく取った休暇を、なんで地球なんかに設定したんだ?あり得ないのはお前だろ」
「ええ〜⁉︎マナブやルイもいるんだぞ?喜ぶと思うだろう普通に。それに楽しんでいたじゃない実際」
モニターのケンはバカバカしいとばかりに、スクリーンを消しにかかったついでに
「あれは仕事だ!」
と言ってぶった斬った。
あの後帰国したケンたちが提出した、ファンタジアの謎の医療班についての報告書は、激しい物議を醸し出していた。
特に"帝都"の医療班らの攻勢は凄まじく、調査隊がそっとしておいてやろうとした配慮など吹き飛ばして、飽くなき純粋無垢な探究心から、さらに詳細な情報開示要求が連日のように出されていた。
その情報を管理操作しているのは、ユリが長官を務める文官省なのである。
「あんた達はいっつも余計な仕事を増やすのよ!この能無しが!」
高度知的生命体であるユリの罵詈雑言は、姉貴が弟に対してだけ見せるような、容赦ない破壊力でロバートとケンを谷底に蹴落としたのだった。
#2
今回の調査で、"ファンタジア"の住人達はそこを死に場と考えているとケンは見立てていた。
それぞれが事情を抱えて地球という惑星に移り住んで、地球人としての生活も営んでいる。
太陽系自体の寿命はあと50億年ほどだろうが、その前に人間という民は、この50年程の短期間で坂道を転がるように自滅へと突き進んでいる。
"ファンタジア"の住人達は、そうした自滅行為を全て見透した上で、あと50年程で地球という惑星は壊滅的な状況に陥ると予測したレポートを提出していた。
「そう…あれはもう止められない」
ケンは諦めたように独り言を呟きながら、たこ焼きの味をふと思い出して自分の折られた左腕を撫でた。
「今もカオナシはずっと引きこもってるのかな…」
なぜか不思議に思い出すのは、猫背でたこ焼きを片手に歩く風変わりな彼女の姿ばかりだった。
#3
役職柄、逃げてはいられない立場のケンは、今後の地球への介入について審議しなければならなくなった。
多くの官僚達は、"ファンタジア"の人材価値を重く受け止めている。
詳らかにされた住人リストの全貌は、驚くべき才能の持ち主達の名が連なり、他に実際の素性を隠している多くの者達もデータ上は非常に稀有な分野の仕事を専門としている事が分かっていた。
命共に果てる覚悟をするほどの魅力が、あの惑星にあるのだろうか?
懐疑の目を向ける官僚が多かった。
"帝都システム"に属する者は、望めば無限に転生を繰り返す事ができる。
『不老不死』
なぜその力を捨てようとするのか専門的に研究する哲学者達や科学者もいるが、結論はでない。
そして実際、ファンタジアに居住する"帝都人"が、今回の議題を提示してきたと見るべきである。
"謎の医療班"を餌に、"帝都"は滅亡しようとする地球にどう対応するのかと暗黙の内に問いかけたのだ。
官僚達の意見は、
1. "ファンタジア"の他惑星への異動勧告
2. 全ての人間の排除による地球のシステムの正常化と"帝都人"の保護
3. 不介入
不介入は、ケンの意見というよりも様子見という意味合いで出されていた。
結果としては、ケンの意に反して何らかの形で地球への介入が必要との意見が、多数を占めたのであった。
#4
全くもって気乗りのしない報告書を持って、陛下に御目通りする申請ついでに、ユリの執務室を訪れたケンだったが、そこには意外な先客がいた。
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