☆2 なこそ

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☆2 なこそ

入ること許さじ 鎖国状態のビアズリー帝国 惑星ピサロも例にもれず男ばかりだ 女といえば、メイドとして仕える者と 器としての対象となる者のどちらかしかいない そのどちらも連れて来られた者達である そして『エニグマ』を取り込んで発動する異能を持つビアズリー人の存在 それらをもし知られたら… 全ての異能を持ってしてもまだまだ"帝都システム"の 圧倒的な力と規模には勝てないだろう エドマンドは、ただ生き延びるためにひたすら耐える それが自分の役割だと信じて、笑顔を絶やさない。           #1 ロバートが対応している相手は、遥か昔"帝都システム"には入らないが和平協定を結んだ帝国の… と思い出そうとしたところで、耳の中に直接ユリの声が響いてきた。 ≪ビアズリー帝国のエドマンド・デュラック大臣よ≫ ≪かなり久しぶりのご挨拶だな…。先日の揉め事の件か?≫ ユリは返事をスルーして、大臣に鋭い眼光を向けていた。 「ビアズリーが、"帝都システム"を侵害する行為は一切行っていない事を証明するために、我帝国の惑星ピサロに来訪を希望されているという事について、謹んでお断り申し上げます」 穏やかな物腰だったが、きっぱりと拒絶の意を表明するエドマンドは、そのバランスよく鍛えられた身体つきからしても一筋縄ではいかない相手に見えた。 長い黒髪を無造作に束ねて、おそらく普段通りの振る舞いで堂々と共も連れずにひとりで乗り込んでくるとは、えらい度胸である。 ケンは妙に感心したが、ずっとこの件に関わっているロバートは結論を曖昧にする気はないらしい。 「わざわざ帝都までご足労頂いた事には、感謝申し上げますが…。ならばあなた方の疑いを晴らす手立ては何でしょうか」 「我々が長きに渡り、帝都との信頼関係を築いて来た事を無にするような愚かな民族と思われますか?」 内心では歯軋りする思いのエドマンドだったが、そんな気持ちはおくびにも出さず人の良さそうな笑顔を返した。 惑星ピサロは、かなり貧しく知能が未発達の民族中心の惑星スミスから主に女を連れて来ていたが、この数年前そんな土地に"帝都街ジェシー"が出来てしまった。 酔狂な帝都人が住み着いた惑星からは、撤退するか、連れて来る女の調達を見合わせるのがセオリーなのだが、惑星ピサロを束ねる大臣カミーユがかなりの人徳者であり、貧しい惑星スミスの住人達は、そのカミーユが長を務めるウィルコック村へ出稼ぎ依頼が殺到していたのだ。 惑星スミスの生物の平均余命は、皆貧しいために数十年ほどで毎日の食事も摂る事ができず、餓死する者も多い。 そんな中、唯一豊かなウィルコック村で働けば美味しい物が食べられると知れば、出稼ぎの希望者が絶えないのだ。 もちろん、募集はメイドとして働ける若い娘のみで、終生地元の村に戻る事ができない条件なので、身寄りのない者に限られていた。 秘密は十分守られていたのだが… 村長兼大臣のカミーユは、選抜されなかった者に対しても手厚くして地元に返してやったので、その評判はたちまち惑星スミスでは知らない者がいないほど広まっていた。 そんな中で帝都人街ができてしまうと、すぐにウィルコック村の異質さに目をつけられてしまったのだ。 そうした帝都人は、中立の立場で地元の民への積極的な介入はしないので気づかれ難いため、異能を使い注意は怠らなかったものの、ウィルコック村への賞賛が高すぎて溢れる募集者を停止する対応が後手に回った。 大臣カミーユの優しさが仇になった形である。 数十年の月日が経ち、貧しく文化度の低い惑星スミスから、ビアズリー帝国の惑星ピサロへと人身売買が行われているのではないかと、"帝都街ジェシー"から調査の依頼が来ることとなった。           #2 エドマンドから提出された資料については、隙がなく作られていて、惑星ピサロへ強引な調査を仕向けることは難しい状況であったが、何かを隠していることは間違いない。 ロバートが頑として動かないエドマンドを、どう切り崩しをするか思案しているところに、突然ユリがロバートの書類を取り上げて割って入ってきた。 「デュラック大臣。ならば帝国領土の惑星ピサロでなく、問題となった惑星スミスならご同行頂いても宜しいですわね?」 突然話しに割り込んできた女性に驚いた、エドマンドはちょっと反応ができなかった。 失礼ながらまじまじとその姿を、不躾にも観察してしまった。 整いすぎるハッキリとした顔立ちに、ブロンドの長く艶のある髪を緩やかに巻いて背に落とし、胸の大きさと細いくびれのウエストを強調した制服をぴたりと着こなしているが、その優雅な仕草は育ちの良さを感じさせるに十分だった。 にしては、態度がでかいというか… 「あなたは?」 「ユーナリア・シエスタと申します。帝都の文官省長官をしておりますのよ。この件は、私が惑星スミスの村長カミーユに直接お目にかかってお話しすることにしますわ」 「シエスタ長官…ほぉ、貴方が自ら惑星スミスにおいでになるという事ですか?あの灼熱の砂漠地帯に?」 惑星スミスは、昼は灼熱、夜は零下と気温差が激しくほとんどが砂漠地帯で水の確保もままならない貧しい生活を余儀なくされているエリアが広がっている惑星だ。 そんなところに、このお嬢さんが行くなんてどうかしてる…そうエドマンドは鼻で笑いそうになったが。 「ユリで結構よ。貴方のことは…エドマンドでいいわね。今日の夜には出立できるようにしておくから、さっさと機体の準備をしておいて頂戴。同行するのは、武官のフェードだけだから。女性ふたり分の部屋を整えてくれればいいわ。ではコクピットで」 一方的に捲し立てるように言うと、さっさと自分の準備にかかろうとしたので、止めに入ろうとエドマンドどころかロバートが血相を変えて同時に立ち上がった。 「もう陛下に許可を取っておいたから。文句があるなら陛下のところに行って来なさい」 「え?」「ええ〜!」 エドマンドとロバートは間抜けにも、顔を見合わせることとなった。 振り返ると、すでにさっさとユリは姿を消していた。           #3 ユリが言い出したら、もう誰にも止められない。 「俺も行く!」 エドマンドにすがりついたロバートだったが。 呆気に取られたエドマンドも、ロバートの首根っこを掴んで怒鳴った。 「こんな話し、聞いてないぞ!」 「俺だって聞いてないんだ〜!!!」 「はぁ?泣くなばか!」 膝折れるふたりに、 「ユリはああいう女だから、すでに全て根回し済みだと思う。悪いけどよろしくな」 部屋に居合わせたケンは、ふたりを慰めるように話しを納めた。 「俺は大分以前に確かお会いしたと思うけど、ケン・アポロニアンと申します。ケンでいいよ。よろしくエドマンド!」 爽やかな笑顔で握手の手を差し出すこいつは、一度見たら忘れようのないなんとも美しい男、アポロニアン殿下のはず…とエドマンドは思い出しながら。 密かに"帝都"大丈夫か⁈と、エドマンドは他人事ながらちょっと心配してしまった。           #4 ゴージャスなユリと、見た目ふわふわピンク系ギャルのフェードを乗せたエドマンドのカーゴは、時空間異動を快適に行いながら考える間も無く惑星スミスに着いてしまう。 あまりにも突然な出来事だか、エドマンドはこういう時は流れに乗っかる事をいつも選択している。 「ねぇ、エドマンド。ビアズリー帝国って徹底的に男尊女卑みたいね」 ユリはズケズケとものを言う。 「お前んとこは、男女平等主義…っていうか、いつからカカア天下になったんだ?」 「まあ懐かしい言葉だこと〜ふふふ。実力主義って言ってくれないかしら」 カーゴの中のカンティーヌで、ユリとフェードと共に洒落たティータイムといった時間を過ごしていたが、何せ男ばかりのビアズリーに洒落っ気など皆無である。 ユリは表裏無しというか、誰に対しても女王様資質全開なので意外にも接しやすい。 反対にフェードのような、何とも綿菓子のようなふわふわした可愛いらしい女性というのはちょっと接する機会の無いエドマンドにとって、扱い難くてドギマギとしてしまう。 キョロキョロともの珍しく室内を見るフェードの空いたカップに香りの良い紅茶を注ぎ足してやる。 そんなエドマンドの武骨な手が、さも美しく流れるような自然な仕草だったのを凝視するようにしている。 「デュラック大臣ほど偉い方でも、ご自分で給仕なさるのですね!ありがとうございます!とっても美味しい紅茶ですね」 フェードも屈託なく、話しかけてくるので赤く照れながら、いやはや何とも困ったエドマンドであった。 普通に女性と会話する事は、ましてや近づくべからずの帝都人の女性と狭い室内で話しを続けるのは刺激が強すぎる。 ましてふたりとも、つんと張り出た両胸の膨らみに否が応でも目が行く服装をしている。 甘いかおりや、手入れの行き届いたその肌、髪の美しさは貧しい女を相手にせざるを得ないビアズリー人の手に届くような生物ではとてもないように感じていた。 そう感じているのを分かっているのだろうか、ユリはエドマンドとの会話を楽しそうにすすめながら、エドマンドを会話に引き込んでいくのだった。
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