☆3 どうけい

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☆3 どうけい

何だか気になる とっても気になる 地球で見た韓流スターみたいな 帝都の流麗な男達とはどこか違う こうして間近にいると、香りも汗とか男くさいし ごつごつした武骨な手も、野暮ったいんだけど… 大きな硬そうな手が、ゆったりとお茶を注ぐ仕草に ドキドキする 何だろうこの感じ… アポロニアン殿下といる時の ホワンと包まれるようなドキドキとも似ているような ああ…戦ってみたいなぁ この男と 想像するだけでフェードは身体が熱くなった。 b0f74670-713b-4526-b4ad-461fabf9e1e4           #1 「ねぇ…ねぇ…。もう、フェード!」 「あ、あーすみません。ユリ長官…な、何でしたっけ」 フェードは、突然自分に声をかけられ我に返って、慌てて紅茶のカップを取り落としそうになった。 「いい男だからって、見惚れてないでちゃんと話しを聞いてなさいね」 ズバリと指摘されて、益々慌てふためいて溢してしまう。 「み、見惚れてなんていません!」 頬を赤くしながら、溢れたお茶を拭くものを探そうと慌てて立ちあがろうとしたフェードを制して、もうあの武骨な手がさっと自分のナプキンで始末してくれていた。 「あ。す、すみません…」 頬は赤くなる一方だ。 そんな姿を、ユリの美しい目が三日月になって妖艶にちょっと意地悪に微笑むのに気がついて、しまったなぁと思うフェードだった。 そんな居心地悪そうなフェードを、庇うかのように 「フェードさん、お気になさらず。私はあまり女性のお相手をするのは苦手なんですよ。特にあなた方のような美しい女性と接すると、どうしたら良いかわからなくなるんです。失礼があればお許しください」 ほとんど本音で話すエドマンドだが、さっきからやたらにジロジロ見られているなとは思っていたので、気になって声をかけてみたのだ。 「え、そんなそんなことは。ただ、エドマンド様はお強そうだなと…。あ、デュラック大臣」 「エドマンドで構わないですよ、フェードさん。大臣なんて似合わないと思ってるんですよ。どっちかというと、身体を動かしている方が性に合っているかな。そう、強いですよ。ふふふ…フェードさんは武官でしたね。惑星スミスに着いたら、お手合わせ願いましょうか?」 と意外に笑った顔は、ちゃめっ気のある男の子のような印象となった。 それでまた、フェードは心臓がバクバクとして真っ赤になり、下を向いて 「ぜひよろしくお願いします」 とぽそっと返事をして、紅茶を啜った。           #2 惑星スミスは、ひたすら暑かった。 果てしなく広がる砂漠の先は、熱気で陽炎がゆらゆらと立ち昇っている。 ウィルコック村が中心となる集落は全体が透明なドーム状のシールドに覆われ、そこだけは異世界の快適さだった。 広さは3000㎢ほど、人口は2000万人程度だが、惑星スミス全体の9000万人から見れば、最大の都市となる。 いわゆるオアシスのような貯水湖が中心で、雨がほとんど降らない惑星スミスであったが地下水量は多く、 そのため一部は豊かな緑を維持できていた。 そのような土地を巡っては争いが絶えなかったのだが、ウィルコック村の村長にカミーユがなってからは統治がなされ、治安も格段に良くなった。 実際のところウィルコック村は、ビアズリー人がその水脈の豊かさに気づいて計画的に作ったのだか、それは"帝都システム"には知らされていない。 帝都街ジェシーが、砂漠の中深くに潜むように存在するのとは大きな違いである。           #3 ユリは早速村長のカミーユ宅を訪れた。 質素だが、貴重な乾燥木材を使ったシンプルなテント状の家は、細工の細かい織物を配置して品よく纏められて暖かい雰囲気で居心地の良さがあった。 村長カミーユは、妙齢とも壮齢ともとれるような風情の穏やかな男性であった。 サラリとしたアッシュベージュの髪を肩のラインですっきりと切り揃えて、それが仕草に合わせて風知草のように儚く揺れる。 カミーユは髪色と同じその瞳で真っ直ぐに、ユリの熱量のある眼差しを静かに受け止めて、優雅に挨拶をする。 「このような辺境の地に、帝都からシエスタ長官においで頂けるとは感嘆の極みでございます」 慇懃そうな言葉だが、カミーユが言うとちっとも無礼な感じがしない。 「こちらこそ急に申し訳ない。帝都のガスケット・アポロニアン陛下より貴殿にお目にかかるように命じられて参りました。こちらが、その書状にございます」 と、ユリは跪きエニグマ製のブレードを差し出した。 「申し訳ないのですが、私どもの土地ではその書状を開くこともできません。必要もあまりございませんし、未分化な現地民に出来る限り合わせられるところは合わせて生活させて頂いております。それは宜しければ、デュラック大臣より帝王アラステア殿にお届けしてもらってもよろしいでしょうか」 「ではウィルコック村が、ビアズリー帝国と関係があると認めると言う事ですね」 「ご察しの通りでございます。ただ帝都の方々が心配していらっしゃるような人身売買は、行っておりません」 「その証明は?全ての契約書の閲覧を…」 「それは、本人達が望まないので悪魔の証明ですね。シエスタ長官。 アポロニアン陛下は、私どもビアズリーが帝都システムの脅威になるとお考えなのでしょうか?」 「可能性は否定なさらないかと…」 ふたりは和やかな口調のまま、無駄なく核心を突く話題の応酬を繰り返していたが、側で聞いていたエドマンドやフェードはハラハラとして生きた心地がしなかった。 「…わかりました。この件は時間をかけてビアズリー帝国と我が"帝都システム"の関係について検討する必要があると陛下には報告することにいたします。それでよろしいですか?」 「なんなりと」 この男…とユリは思考を巡らしながら、フェードとエドマンドを振り返って 「あなた方さっき、手合わせするって言ってたわね。行ってきていいわよ」 と、唐突に下がれという意味でフェードに向かって命じたのだ。 虚をつかれたが、直ぐにエドマンドがフェードの手を優雅に取って 「では、そうさせていただきます。カミーユ村長もよろしいでしょうか?」 カミーユは、側近に武道場の手配を指示しながらあっさりエドマンド達を遠ざけたのだった。           #4 カミーユは、他の使用人と思しき男性達も人払いして、ユリとふたりで話せるように勘よく配置させた。 頭が切れるというか… ユリはカミーユのその風貌といい、全体から醸し出されるゆとりある男のオーラに興味を益々抑えられなくなった。 「村長ほどの能力がおありのビアズリー人が、なぜこんな辺鄙なところにいらっしゃるの?」 「好きでここにいるだけで、能力などないからですよ。シエスタ長官」 「ユリで結構よ。カミーユ」 「おや、私の事も呼び捨てですか?面白いお嬢さんだ」 「そのために人払いしてくださったのでしょう?」 にっこりと笑いながら、土地の茶を煎じながら菓子なども皿に盛り付けている。 「ビアズリー人の男は、まめなのね」 その仕草はエドマンドと同様洗練されて美しい。 さらにカミーユの指は細く長く、とても綺麗な白く滑らかな手をしていた。 「さあ、それはどうでしょう。女をとても大切にする伝統はありますが」 上手に誤魔化しながら、腹を探り合って会話をしばらく続けていたふたりだったが、どちらともなく次第に寛いで世間話しをするようになった。 もう夜も更けて、村の外の砂漠は零下に冷えて来ている事だろう。 今度はゆっくりと部屋を暖めながら、ふわふわの不思議な紋様の絨毯の上で、途中で運ばれて来た素朴な夕食と酒だったが、心尽くしにもてなされ広げられ、寝そべりながらふたりで食べ続けつつ、まだ話しが尽きない。 「あなたほど刺激的な男に会ったことはないわ」 ユリは感心して、悪戯っ子のようにカミーユの瞳を覗き込んだ。 「あなたの魅力には敵わないからでしょう。それに私は帝都の方々のように洗練された者ではないので、珍しい動物にたまたま興味を持たれたようなもの、直ぐに飽きますよ」 カミーユが余裕ある対応で、それでも本当に楽しいひとときを過ごせたことに感謝を示して、そろそろお開きにと身を起こした。 「私、今夜はあなたと過ごすことに決めたわ!」 「え⁈⁈⁈」 それにはさすがのカミーユも、絶句。 驚いて素の表情を垣間見せてしまったほど、思考が止まった。 その少年のような表情が可愛くなって、ユリは両手でカミーユの顔を掴んで身体ごと押し倒しながら、その薄く淡い唇を奪った。 「!!!!!!」 カミーユの瞳は大きく見開かれて、唇を奪われたまま身動きできなかった。 人生結構長く生きてきたが、襲われたのはこれが初めての経験だ。 それも唐突に⁈ な、何が起きた!!!!!! 「あら…初めて?」 それって、女の台詞⁈だろうか。 絨毯の上に倒され、女に馬乗りになられている姿はさぞかし間抜けだろうなと場違いなことをカミーユの頭は思考した。 金縛りにあったくらい、衝撃だった。 聖人とも謳われたようなカミーユを、手玉に取るユリとはいったい… 頭がクラクラとした。 ユリはそんな魅力的なカミーユの顔を見下ろす位置で、両肩から衣をするりと落とすと、そこから剥き出しになった弾きれんばかりに豊満な乳房が、まるで果物のように甘く柔らかく、カミーユの手のひらへと落ちて来る。 ユリの身体はビーナスのような神々しい光を放ち、そうなる事が必然のように、カミーユはその身体に導かれて行くのだった。
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