光芒-こうぼう-☆7

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光芒-こうぼう-☆7

私に触るな!! モニターに高速で流れる遺伝子情報を処理しながら、はっと気がつくと、また泥沼に足を囚われていた。 忘れたくても現われる気持ち悪いあの男の顔。 そして、ぬめっとした手の感触が拭っても拭っても蘇ってくる。 自分を自分で抱きしめながら、また吐き気が込み上げてきた。 ケンは回復しただろうか…。 闇の中の男を払拭するのに、光の中の男の顔を思い浮かべた。 闇と光はいつも対になって現れる。 光を思えば、闇がついてくる。 因果なものだ…。 じっとして吐き気が収まってくると、マトリは漆黒の部屋でまたひとり、モニターの情報解析に没頭していった。           #1 オグリは、フェードの上官の武官である。 特に新生物に対する調査と、その対策を専門としていたので、"謎の医療班"がもし外敵となる生物ならばその対応は彼が中心で行うはずだった。 今回の調査を開始して、オグリは"謎の医療班"によって治療を受けたもの達の情報を中心に収集していたのだが、その治療対象者は思った以上に広範囲に渡っていた。 この治療班の腕の高さの評判は、太陽系だけでなく"医療班"の存在しないような、未開で遅れた文明の地域に住む"帝都人"に密かに広まっていた。 色々なエリアから、ひっきりなしに患者が来るので、確かに会議に毎回出る暇はないだろうなと、ちょっと同情するほどの量をこなしていると推測された。 治療内容も、精査したところ"帝都"と匹敵する技術の高さを持ち、もし彼らが"帝都人"でなければ突然変異種か⁉︎と身構えていたが、あっさりと"帝都人街"のファンタジアにいる事がわかって、ひとまずは安心したオグリであった。 しかし、本人の同意がなければ個体識別検査ができず、結局その出自はわからないし、メンバーの構成はジャック以外謎のままで、当のジャックの出身も不明であった。 そんな手詰まりな中、3日前に突然懐かしい人物からコンタクトをもらった。           #2 オグリが招待されたのは、レマン湖を臨む瀟洒なホテルの一室だった。 「ここはね、私の恋人の好きな街なのよ。で、ホテルを買い取って暮らしてるの。いいところでしょ?」 「恋人って…男?」 「女に決まってるでしよ!相変わらず失礼な男ね!彼女もよく滞在してるわよ!一途な乙女心をなんだと思ってんのよ!デリカシーのないあんたなんか呼ぶんじゃなかったわ」 元々王侯貴族的な華やかさがあるルイだったが、"帝都"時代からなぜか男臭いオグリと気が合った。 後で知った事だが、地球に来るようになったこの十数年で、金髪を緩やかな巻毛にして伸ばし、イタリア製のスーツをエレガントに着こなしながら、女言葉を好んで使うようになっていた。 しかし中身も心も変わらず男であるそうだ。 (凛とした良い男だったんだがなぁ…。それこそ今はルイ何世もどきのルックスかよ) 久しぶりに会ったオグリは、その変わりようにドン引きしていたところだった。 そんな気持ちを知ってか知らずか、そんなオグリを無視して、ルイはそそくさと本題に入った。 「さあ、出して頂戴!早速取り掛かるわよ!!」 言ったが早いか、オグリは頼まれていた資料を、すぐに立ち上げられた巨大なスクリーンへと転送した。 そこからは、さすがの高級官僚の腕の見せどころとばかりに、ルイはもの凄いスピードで、完成された報告書の山を築いていった。           #3 同じ頃ファンタジアの執務室では、マナブとフェードもこの1か月の様々な報告書を、次々とまとめているところだった。 10年ほどこのエリアに出入りしているというマナブの知識を持って、不足している情報を補完しつつまとめられてゆく報告書は、流石に素晴らしい出来栄えだった。 フェードは武官に属するので、こうした事務作業に向いていないとはいえ、"帝都人"のレベルを持ってすれば地球人の数万倍の能力は充分兼ね備えている。 それでもやはりその道の専門家、特に有能の誉れ高いマナブとの作業では、能力差に歯痒い思いをしていた。 そんなふたりのところに、ジャックが珍しく顔を見せた。 「マナブ、これでいいか?」 「ああ、そこに置いておいてくれないか?今手が離せないから、あとでチェックしとくよ」 ジャックは言われた通り、データの入った薄いブレードを机の上に置くと、さっさと出ていった。 「あの…お知り合いだったんですか?」 「ああ、もう10年ほどの付き合いになるかな…」 びっくりしているフェードに対して、スクリーンを凝視し、手元を素早く動かし続けながら彼女を見ることもなくマナブはそっけなく返事をかえした。 上品な紺系のベストを着て全体をブリティッシュトラッドにまとめ、黒いセルの眼鏡を掛けた彼は、先日博士と観たスパイ映画の中の『Q』のようだわと、ふと思ったフェードは、やはり頭の中が博士に毒されていると嘆き悲しんだ。 「疲れたなら休憩しておいで」 「あっ、いえいえ大丈夫です!」 一瞬気を抜いたのを、直ぐ気づかれてしまった。 我に返って、また仕事へと頭をスイッチさせたフェードであった。           #4 ひと通り、現在加療中の患者達の治療経過を確認して指示を入力し終わったので、次にマトリはケンに送られた極秘資料を盗み出して、新たに立ち上げたスクリーンで彼の仕事を次々とこなしていった。 本来なら脳内情報を、本人の許可なく取り出して利用する事はもちろん禁じられている。 実際、マトリは今ケンになりすまして彼の仕事を処理する事が出来ているのだから、これはヤバいお話である。 しかし、元々彼をよく知っているマトリにしてみれば、そんなめんどくさい分析をしなくても彼になりすます事なんてお茶の子さいさいである。 ケンの考え方の癖や、ロバートへの対応のパターンなど、意外と彼ら管理職はスタンダードなのでやり易い。 それに比べて地球を好む"帝都人"は、はっきり言って化け物揃いだ。 100万癖くらいは平気でありそう。 そんな事を考えながら、マトリは久しぶりにケンやロバート達と仕事をしていた頃の気分を味わえて、楽しい気持ちにさせられた。
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