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ゆうれいのゆめとおねしょの地図
むかしむかし、ある所にかやぶきやねの古びた小さな家がありました。
ある日の夜中、その家の引き戸をあけた男の子がまわりをキョロキョロしながら外へ出てきました。その男の子がみにつけているのは、赤いはらがけ1まいだけです。
「お、おしっこ……」
どうやら、男の子はおしっこがしたくて外へ出てきたようです。家の外にはべんじょがありますが、その場所へ向かって足をふみ出すことができません。
「べんじょ、こわいよう……」
すると、男の子が思いうかべたお母さんからやさしい声をかけてきました。
「文太くん、早くべんじょへ行っておいで。母ちゃんもおうえんしているからね」
「母ちゃん……」
文太は、お母さんに後おしされるようにべんじょのほうへゆっくりと歩きはじめました。わずかな月の光をたよりにしながら、文太はべんじょの入り口へたどりつきました。
べんじょへ行くのをかなえることができたとあって、文太は自分でおしっこをしようとすぐに入ることにしました。
入り口から足をふみいれると、ギシギシという音が文太の耳に入ってきました。そこは、いたばりのゆかのまん中にしかくいあながあいています。
「おしっこがもれそう……」
文太は、くらやみの中でそっとすすみながらおしっこをする場所をさがしています。そんな時、べんじょのかべからぶきみなわらい声が聞こえてきました。
「ふはははは! 夜中のべんじょへようこそ」
文太がくらやみの中で見たのは、かべからあらわれたゆうれいのすがたです。ゆうれいは、ぶきみな顔つきを見せながら文太のことを言いはじめました。
「わしは知っているぞ。8つになったのに……」
「わあああっ! ゆうれいだ!」
ばけものがせまってくるのを見て、文太はあわててべんじょからにげ出しました。おしっこをガマンしながらもどろうとしますが、引き戸の前にはさっきのゆうれいがまちかまえています。
「ほれほれ、おしっこをしないとどうなるかな?」
「わ、わああああッ!」
文太は、ふたたびべんじょのほうへかけ出しました。しかし、ここにもゆうれいがいてべんじょへ入らせてもらえません。
「物ほしにはいつも何がほしているのかなあ?」
「わあ~っ! こっちにこないで!」
ゆうれいがこわい文太は、もういちど家のほうへ向かって走っています。引き戸の手前にゆうれいがいないことをたしかめるといそいで中へ入りました。
文太は、あわてたようすですぐにふとんの中へ入りました。そして、かけぶとんをかぶって自分のすがたを見せないようにしています。
その間も、文太はずっとおしっこのガマンをしつづけています。早くおしっこをしなければたいへんなことになってしまいます。
「こ、こわい……。ゆうれいが……」
ふとんの中でふるえている文太は、早くここからゆうれいがいなくなってほしいと思っています。文太は、となりのふとんでねているお母さんにたのむことにしました。
「母ちゃん、おしっこがもれそう……」
お母さんの顔だと思って近づくと、文太のほうへゆうれいが顔を向けてきました。ふとんから出てきたゆうれいを見て、その場でしりもちをつくように後ろへあお向けになってしまいました。
「ふはははは! おしっこもせずにここへもどったらどうなるかな?」
「どうなるかなって……」
「ねているとちゅうでおふとんに……」
目の前にせまったゆうれいのすがたに、文太が思わずりょう足を上げたその時のことです。
「ジョパジョパジョパ、ジョジョジョジョジョジョ~ッ」
「うわっ! わしの顔におしっこをするとは……」
文太は、ついにガマンできずにおしっこをばけものの顔にいきおいよくめいちゅうさせてしまいました。その後も、ばけものへのおしっここうげきをつづけている文太ですが……。
「文太くん、おはよう」
文太が目をさますと、そこにはやさしいお母さんがいることに気づきました。お母さんは、かけぶとんをめくって文太のようすをじっと見つめています。
「ふふふ、今日もおふとんにおねしょしちゃったね」
お母さんが見ているのは、文太がみごとに大しっぱいしちゃったおねしょぶとんです。文太は、お母さんからのことばに自分のはらがけの下をりょう手でかくしています。
どうやら、ゆめの中でゆうれいの顔へのおしっこめいちゅうがいけなかったようです。
「だって、ゆうれいこわいんだもん」
「文太くんは、いつもばけ物をこわがったりしているものね」
お母さんは外へ出ると、文太がやってしまったおねしょのおふとんを物ほしにほしています。文太は、おふとんにりっぱにえがかれた地図を見て顔を赤らめています。
「ねるまえに、自分でおしっこへ行けるようになれるといいね」
「て、てへへ……」
そんな時、べんじょの中のかべからはゆうれいがあらわれました。ゆうれいは、朝からにぎやかな文太とお母さんのすがたをそっとのぞいています。
「あのぼうや、やっぱりおふとんに大しっぱいをしてしまったようだな。8つになっても、あいかわらずおねしょをするとはなあ」
そんなゆうれいですが、文太からいきなり食らったあのことはまだわすれていません。
「まさか、ずっとこわがってばかりのぼうやからおしっこをめいちゅうされるとは……」
どうやら、ゆうれいは文太が見たゆめの中のできごとをつぶやいているようです。でも、ゆうれいがゆめの中へどうやって入ったかはだれも分かりません。
物ほしのおふとんは、おねしょの地図という形で自分のことを知ってほしいという文太の気もちがこめられています。
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