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「…ちょっと聞いてるの?」
その声に内心、溜息を吐いた。
この地では、仕来りとして身分の低い者は相手に許されない限り、面を上げてはならないし反論してもならない。
特に雅族の者は伝統や風習を重んじるので、それを破れば問答無用で折檻される事も珍しくは無い。
「こ〜れだから下民は…!ちょっとお仕置きが必要かしら?どう思います?蘭様?」
こちらが黙るしか無いことを良い事に、娘の一人が物騒な事を言い出した。
「そうねぇ…?そう言えば翠さんったら、この前の試験で学年一位を取ったそうねぇ?けれど、五科目全て満点なんて可笑しくなぁい?狡をしたんじゃなくて?」
取り巻きの娘に乗じて、蘭姫は嘲笑いながら問い質す。
全く持って聞き捨てならないし、単に学年順位上位者は学費免除になる事から死ぬ気で勉強しただけである。
だが、ここには翠の味方は居ない。
どうやら絡まれたのはそれが原因らしい。
(不味ったな…、ちょっと力抜けば良かったか?いや、一位タイって書いてあったし下手に力抜いたら上位十番目まで入れなかったかも…)
悶々と考えつつ尚も沈黙を守る。
その瞬間だった。
パチンと鳴った扇の音と同時に、首元に熱が過ぎる。
視界の端、ひらりと揺れたお包みの布に咄嗟に卵を庇った。
「あら、残念…」
そんな嗤い声に思わず、高貴な悪意の目を睨み返した。
お得意の火の妖術でお包みを炙り、首に掛けていた布を焼き切ろうとしたらしい。
危うく卵を割るところだった。
「ちょっと⁉下民の癖に睨んでんじゃないわよ!」
台詞のような言い回しで怒鳴りつけ、言い出しっぺの娘が嗤いながら扇を振り上げる。
咄嗟に卵を抱き締め、翠は呪いの言葉を唱えた。
瞬間、ダーン!と轟音を立て雷がすぐ傍の枯木を直撃。
その音に魂消た娘達は短く悲鳴を上げ、燃え出す枯木にギョッとした。
「恐れながら、早いご帰宅を進言します。時期に雨が降るかと」
怖いほどに淡々と告げ、好い加減にしろとの警告を持って腰を上げる。
鋭い眼光を向ける彼女に、蘭姫と娘達は悲鳴と罵詈雑言を投げながら一目散に逃げ出した。
「…天気が味方したね」
良い気味だと笑いつつ、翠はどんよりと曇り出した空の下、ぽつりぽつりと降り出した雨と戯れるように家路を急いだ。
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