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この世界では、自分の命を酒に変えられる。
そうして作られた酒を売って、金にしたりもするし、質の良い命(地位のある人であったり、若い人は質が良いらしい)を求めて、金を積んで、命を少し分けてもらったりもするという。
どちらにしても、金、金、金だ。
そんな世界で僕は生き、これからも生き続けようとしている。
そんな世界で君は生き、これから死に行こうとしている。
君は、自身の命のすべてを酒に変えた。
「ビール瓶一本くらいしかない。どのみち僕は早くに死んだらしい」
君は笑う。
「この酒を飲み干したら、僕は死ぬ。これから、一日に二杯ずつ、二人でこの酒を飲もう。そうして、最後のひとくちは、君が飲み干す。これは僕の意思だ。君は罪には問われない」
だから安心していいと君は言う。
「一緒に死んでくれなんていわない」
僕の心を見透かすように君は言う。
「僕は生きられない。だけど、君はきっと生きていける」
ずるいな。と僕は言う。
「そうだね。すまない」
君は申し訳なさそうに笑う。
「じゃあ、最初の一杯だ。乾杯しよう」
僕らは、君の命を二人で飲む。
「たいして美味くないね」
君は言う。
けれど、僕は、その酒をとても美味しいと感じた。
それは、僕にとって、君の命はとても大きな価値があるからなのかもしれない。
「また、明日だね」
君は言う。いつも通りに。
僕は、僕は……。
そうだね、と、必死に笑顔を作りながら返す。
ビンの中の君の命は、少しだけ、減った。
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