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「さて、私たちのお付き合いも公認になったところでちゃんとお弁当食べましょうか」
鍋島さんは、レジ袋にあった残りをベンチに広げる。鍋島さんと俺の間に空間ができるが、それはそれで有り難い。密着していたら俺のハートが保たない。
「君たちも食べませんか?」
「ちょっと鍋島さん……」
鍋島さんが子供たちにも声をかけて、子供たちはワラワラと俺らを囲む。
「食べるーー!」
「お箸はちゃんと人数分あるからね」
用意周到な鍋島さん。
「なんで五十本入りの割り箸買ったのか気になってたけど、こういうこと?」
鍋島さんはクスクス笑う。
「そんな訳ないじゃないですか。正樹くんとお付き合いしてるなら外でご飯食べること多いだろうなという予測をしただけです。ま、子供たちとの触れ合いも将来、役に立つでしょうから」
俺の脳裏に結婚の二文字が浮かんだがすぐ頭を震わせてその思考を追い払う。いくらなんでも気が早過ぎる。
「ねぇねぇ。お姉ちゃん、彼氏さん、全然食べないよ?」
「いいのです。正樹くんはヘタレだからはじめてのことには大体尻込みするのです」
めちゃくちゃ言われてる……。否定もできないけど。
「お姉ちゃんはヘタレな彼氏でいいの?」
「いいのです。ヘタレだからこそ経験が少ないから色んなはじめてを一緒に楽しめるのです」
「はじめてってそんなに大事?」
「私にとっては、ですけどね。いいですか。はじめては一回しかない。つまり最初で最後なのです。そのはじめてを一緒に過ごせる時間は私にとっては大切ですね」
「お姉ちゃん、彼氏さん大好きなんだね。あとどんなはじめてをしたの?」
「そうですね。告白されたその日にはじめてのビンタをしてあげました」
なんで、それ言うの!!?
反論したいが反論する言葉が浮かばす唇を噛む俺。
「告白されてビンタしたのに付き合ってるの? 変なのぉ!」
「告白されたときにビンタしたのに正樹くんは逃げなかったから付き合っているのです。私にとってははじめてされた告白でしたが、最後の告白であることを望んでますよ」
子供たちにも礼儀正しい鍋島さん。やっぱり好きだなぁ。怖いけど。
「ほら。お兄ちゃん、いつまでもヘタレじゃいられないよぉ?」
子供たちが俺に発破をかける。
「分かってるよ!」
保育士みたいなこの状況、悪くはない。俺だって一世一代の決意を持って鍋島さんに告白したんだ。最初の最後の告白であってほしいに決まってる。
だからそっと鍋島さんの手に握った。鍋島さんはふわりと笑う。
「ヘタレの正樹くんにしては勇気出しましたね」
ちゃんとヘタレは返上しよう。いつまでも鍋島さんの隣にいられるように。
了
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