鍋島さんには敵わない

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「鍋島さんって……やたら俺のはじめて奪いたがりますよね?」  少しだけ気になっていることを口にしてみる。鍋島さんは今、機嫌良さそうだし教えてくれるかもと期待をしてみる。 「いけませんか?」  礼儀正しい言葉遣いの鍋島さんに気後れはするが怒っている訳じゃないのだから。 「理由を知りたいなって……。俺、お付き合い自体がはじめてなので、理由が皆目見当もつかなくて……」 「ふふ。異性とのお付き合いは私もはじめてです。だから正樹くんのはじめては私のはじめてでもあるんです」  可愛い鍋島さんのことだから経験豊富なのだろうと勝手に憶測していた俺が恥ずかしい。先入観は相手に対しても失礼だ。 「ごめんなさい。俺、鍋島さんのこと誤解してた」 「でしょうね。正樹くんを見てれば分かります。勝手なイメージを抱かれているのだろうなと」  俺は顔に熱が集まるのがよく分かった。きっと真っ赤だ。 「鍋島さん……」 「余計なことは言わなくて結構です。せっかくのお花見です。お弁当食べましょう」  また、ガサゴソとレジ袋を漁る鍋島さん。鍋島さんは、お弁当一つと箸一膳を取り出し、お弁当の蓋を開ける。  鍋島さんは割り箸を割って、卵焼きを箸で掴んだ。 「はい。正樹くん、あーん」  俺の体中の血液が顔に集まるのが分かる。 「あ、あーん」  俺はひよこみたいに口を開く。鍋島さんの掴んでいる卵焼きが俺の口に入る。  味とかよく分からない。お付き合いとはこういうものなのだろうか。 「ラブラブだぁ!」  近くで走り回っていた子供たちが俺らを囲む。 「ラーブラブ! ラーブラブ!」 「う、うるさい……」  つい強がる俺。鍋島さんはフッと笑う。 「そうです。私たちはラブラブなんです。羨ましいでしょう?」  優しく子供たちに言葉を向ける鍋島さん。女神のようだ。 「ふうん。そっちのお兄ちゃんは顔真っ赤なのにね」 「仕方ないのです。正樹くんはヘタレだから」 「ヘタレーー! ヘタレだぁぁぁぁ!!」  子供たちは叫んで立ち去っていった。 「ちょっと……鍋島さん、ヘタレって……」 「あら? 違うのですか?」 「違いません……」  どうしても鍋島さんには逆らえない。俺は一生、ヘタレ扱いのままなのだろうか。 「じゃあ今度は正樹くんが私にあーんをしてください」  へ? と俺は視線をさっきいた子供たちに向ける。ニヤニヤと笑いながら俺らを遠巻きに見ている。恥ずかしい。 「駄目ですか? やはりヘタレの正樹くんには無理なお願いなんでしょうか?」 「や、やります!」  鍋島さんからお弁当と箸を受け取り、唐揚げを箸で掴む。そこで一瞬止まった。この箸、さっき俺が口つけたのだよね? 間接キスになるよね?  唐揚げを持ったまま止まった俺を見て鍋島さんが微笑む。 「間接キスがどうとかと思ってますか? 私たちはもうキスした間柄なんですよ?」  そうでした。告白したその日に俺のファーストキスは奪われました。あれは鍋島さんにとってもファーストキスだったんだろうか。 「鍋島さん、はい、あーん」  ひよこみたいに口を開けた鍋島さんの口に俺は唐揚げを入れる。 「間接キスーー!」  遠巻きに見ていた子供たちがまたはしゃぎ始める。 「ラーブラブ! ラーブラブ!」  もう恥ずかしくて死にそう……。  唐揚げを咀嚼する鍋島さんは子供たちにむけて親指を立てている。なんでそんなにハートが強いの!?
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