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冷蔵庫から携帯を見つけても、全然驚かない。
作った食事にたんぽぽが生けられても、全然驚かない。
壁一面にスーパーのチラシが貼られていても、全然驚かない。
長袖が切られて全部半袖にされてても、全然驚かない。
・・・でも、遠く山の上のお墓からあなたが帰ってきた時には驚いた。
あなたはお巡りさんに連れられ、この家に帰ってきた。もうあなたとの暮らしに疲れてしまって、あなたをお父さんのお墓に置いてきたのに。
衝動的に犯した私の大罪を、お巡りさんに言ってしまったら私は捕まり、この生活から抜け出せるかもしれない。
そう思い、私がお巡りさんに話そうとしたら、あなたは壊れたレコードのように繰り返し、
「私がチイちゃんの手を離してしまったんです。ごめんね。ごめんね。迷子にしちゃってごめんね。ちゃんと手を握っておくからね。ごめんね。ごめんね」
と私の頭をくしゃくしゃと何度もかき混ぜて、私は堰を切ったように大声で泣き叫んでたから、お巡りさんは何も言わずに私が泣き止むまで玄関で待ってから帰っていった。
それから私達は、一緒におにぎりを作ったり、チラシを切って貼ったり、野花を生けたり、切られた長袖でお手玉を作ったりした。
そしてあなたが旅立ち、家を片付けていたら、母子手帳とあなたの昔の日記が出てきた。
○月○日
冷蔵庫を開けると、見覚えがないものが並んでいて、よく見ると泥団子!チイちゃんが、いつもご飯作ってくれるママの為に作ってくれたんだって。優しいね。
○月○日
洗濯物から吸収ゼリーが爆発したオムツ発見。チイちゃんがママの真似して自分のものを洗いたかったらしい。自立心が強いのかしら?頼もしいチイちゃん!
○月○日
今日はご飯をおとなしく食べているなと思ったら、お椀にぺんぺん草、たんぽぽにカラスノエンドウ・・・生け花チイちゃん流!?才能あるのかも。
○月○日
暖かくなってきて衣替え。来年の冬には成長して着られないだろう長袖を切って半袖に。チイちゃんは、夏も着れると大喜び。余った袖は小豆を入れてお手玉にしようね。
○月○日
チイちゃんとチラシを切って壁に貼って、動物園。保育園での遠足が楽しかったんだね。また一緒に行こうね。
あの時、連れてきたおまわりさん。あの後、私達を心配して、様子を見にきてくれるようになって、今は私の大切な旦那さん。
もしかしたらあなたは、最後に私に、支え合える相手を連れてきてくれたのかもしれません。
私の罪をも許し、私を最後の最後まで大きな愛で包んでくれた。大きな愛の人。お母さん。ありがとう。ごめんね。
お母さんの子供に産まれて、本当に良かった。ゆっくり休んでね。
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