一章 影の病

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 ここ最近にあったことと言えば、隣国のヌーク王国が我がディグニス帝国に併合されたことだろう。以前から併合の話は出ていたが、隣国の君主がいつまでもそれに応じる姿勢を示さないまま6年が経っていた。    特に脅威と言えるほどのモノでは決してなかったが我が父、皇帝サリエフの言う限りでは、我が帝国の臣民が幾つか拉致監禁されていると、拷問を受け死者もでている。これらの報復と救済を目的として侵攻をし無条件降伏に持ち込んだと言う。  物騒な話ではある。しかし、今に始まったことでもない。以前から父は似たような口実を持ちかけては武力による領土拡大を進めてきた。そのおかげもあり今や我が帝国は世界でも覇権を握らんとするまでに成長していた。敵も限られてくる。    だからこそ、あんな小国が我が帝国を挑発するようなことをするものなのかいささが疑問で仕方ない。  と。そんな、くだらないことに部屋の窓から帝都を一望し没頭するのが私の日課。この部屋から見渡す景色はまさに平和そのもの。血生臭い光景など目に映るはずもない。   「姫様、朝です。早く起きてください。まもなく着付けの者が参ります」  扉を挟んだ向かい側から、いつになく聞き覚えのある男の声がする。毎朝、偉そうに私を起こしにくるくせに一度も私より早く起きたことのない専属護衛のオルディボだ。  扉に邪魔され姿こそ見えないが、その声からも分かるほどに若い30代ほどの護衛だ。  そこまで体格が良いわけでも護衛として優秀なわけでもないが、顔だけは整っている。だからかえって腹が立つ。 「ありがとう。貴方のおかげで今日も遅れずに済みそうだわ」 「いえ。これが仕事ですから」  そんな仕事は無い。まんざらでもない態度でオルディボは返答した。    朝一の皮肉をものともせず話を続けようとするオルディボに私はベッドに横たわり話を聞く態勢に入った。前日、そのまた前日と変わることのない予定を垂れ流し聞いたのち、着付けの者達が部屋の前に到着した。
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