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「リアナ様。私です。ミリヤです。着付けのお手伝いに参りました」
私はベッドから起き上がり扉を開けた。そこには二人のメイド服を着た女性が礼儀正しく待機していた。
その先頭は黒髪を胸まで伸ばし、気の強そうな顔つきで私を見つめるミリヤが、後方は黒髪をキッチリと結んだ気の弱そうなメガネの新人アロッサがいる。
よく見れば、奥にはオルディボが待たせたなと言わんばかりの表情でこちらを見つめている。どうやら、自分の仕事がここまでだと言うことを心得ているようだ。私は特に気にかけることもせず、二人だけを中に入れ扉を閉めた。
部屋に入るとすぐに着付けの作業が始まった。ミリヤが先導しアロッサがその助手のような形で仕事をする。
いつ見てもミリヤの手捌きは一流もので手慣れているのが分かる。それに比べアロッサはどこかぎこちなく作業が遅れて見える。
「ちょっとアロッサ! 貴方、何回言ったら分かるの? それは最後にやるから今はこっちを手伝いなさいよ! 本当にも……」
「す、すみません。今やります」
人目を気にせずミリヤはアロッサに罵声を浴びせる。私には何を間違えたのか全く見当もつかないが、ミリヤには何か分かるようだ。
「リアナ様。昨晩はよく寝られましたか?」
「そうね。ちょっとハエが多くて寝るには……」
「アロッサ! それはもういいからこっちをやりなさい!」
私の言葉は遮断された。そもそも、ミリヤは私のことなど特に気にかけていない。交わす会話も毎日同じもの。自分の仕事に集中しているからだろうが、それならそれで無理に会話してくれなくて結構だ。
「すみません。それで、昨晩はよく寝られましたか、リアナ様?」
「ええ。文句のつけようがないほどに良く寝られましたわ。ミリヤ」
「それは、良かったです。また、何かありましたら、お伝え下さい。すぐに改善するよう手配いたしますから。ご安心下さい。」
私の記憶が正しければ、もう2ヶ月も前から同じ改善案を出しているはずだが、一向に改善されていない。
というより改善する気がないんだと思う。次第にハエの数が減っているようにも見えるが、単に季節の移り変わりが原因だと思う。それなのにミリヤときたら毎年、何の恥じらいもなく「私のおかげで改善された」と言う。本当にそうなら、もう毎晩私が寝てる間に騒がしくしないでほしい。
「リアナ様。着付けが終わりましたので、ダイニングルームへお越し下さい。皇后陛下がリアナ様をお待ちしています」
「そう。お母様が……」
「どうしましたか? 体調がすぐれないようですが。何かご不満でもありましたか。私に出来ることでしたら助けになりますから」
アロッサに対しては、あれほどキツい態度を見せたミリヤも姫には笑みを交えながら話をする。しかし、その目に光が宿ることは決してない。ただ、私の機嫌をとりたいだけなのだと思う。
「お父様は来てないのね」
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