一章 影の病

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それから一時間ほどの時が経ち、ようやくペテック公爵が我が宮殿前に姿を見せた。姫はオルディボを含めた何人かの護衛とメイドを引き連れヤツの到着に備える。と言っても、私が来たのは数分前のことで特に待っていたわけでもない。 「リ、リアナ皇女…… はあ…… お、お久しぶりですなぁ……」  ペテック公爵はお疲れだった。その太々とした顔から滝のごとく汗を垂れ流し、気味の悪い笑顔をこちらに見せつける。  聞いていた通り白馬を連れていたが、ペテック公爵はリード握っているだけで乗馬していたわけではない。  というより、同行している護衛達も誰一人として乗馬してるものはいなかった。まさか、この広大な敷地内を歩いてきたのだろうか。乗らないなら一体なんのために連れてきたんだろうか。つくづく愚かな人間だこと。 「お会い出来て嬉しいですわペテック公爵。あれ? 随分、お疲れなようにも見えますが体調でも優れませんの? でしたら今日はひとまず帰られて、また体調の優れた時にでも来て下さい。私はいつでも、お待ちしていますよ」 「いえいえ。そんなことはありません…… ただ、少し疲れただけです。それにしても、なぜまたいきなり敷地内全域に乗馬禁止令など…… ワレが領地を離れた時には、そんな情報は無かったはずですが……」 「知りませんわ! お母様が決めたことですもの。ですよねオルディボ」  オルディボは「さようです」と頭を下げる。どうにも腑に落ちないペテック公爵は戸惑いの表情を見せる。  どうやら、カッコつけようとしたあまり馬車も連れずに来たせいで、最後まで歩くハメになったそうだ。しかし、良い運動になって良かったと思う。全くいい気味で仕方がない。
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