一章 影の病

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 すぐさま、ペテック公爵を接客室へと案内する。その道中も姫とペテック公爵の間にオルディボが入り出来るだけ接触しないように細心の注意が図られた。汗のせいなのか元からなのか普通に体臭が臭い。というか多分、後者だと思う。 「それで、本日はどういった御用件でいらしたのでしょうかペテック公爵」  姫は接客室に用意されたソファに一人座る。ペテック公爵も姫と向かい合うように用意されたソファに深々と腰掛ける。  こうして向かい合ってマジマジと見てみると、ボタンが一つ外れていることに気がつく。きっと収まりきらなかったんだと思う。 「もちろん、婚約の話ですぞ。前回は一度お見送りすると、仰っておりましたが。どうですか? 何か気持ちの変化はありましたかな? ハハッ」 「まったく変化ありませんわペテック公爵。なにせ前回来られた日から今日まで一度として貴殿のことを考えたことはありませんでしたから。それより、あなた達ペテック公爵が暑がってますわ。あおいで差し上げなさい」  すると二人のハウスメイドが巨大な団扇を持ちペテック公爵に風を送った。 「こ、これは嬉しい気遣いですな。ハハッ……」 「いえいえ。お気になさらないで下さい。良い対談には良い環境作りが必要ですから」  臭いを、こちらに来させないためだ。 「そう言えば、皇后陛下が来られているとお聞きしましたが、今はどちらに。前回はお会い出来ませんでしたからな、今回こそはぜひ」 「申し訳ございませんぺテック公爵。お母様は今、大事なお仕事で手が外せませんの。今晩の社交会にでも、お声をかけてみてはいかがですか。無論、お母様が相手をするとは思えませんけどね。あなた達、お茶のおかわりを持ってきてちょうだい。それと、ぺテック公爵にはお水を足してあげなさい」   一人のハウスメイドが姫のカップを新しいモノと置き替える。無論、この時も姫は表情を一切崩さない。  ぺテック公爵は足された水を一気に飲み干すと、ボロは出せまいと呼吸を整え気持ちを落ち着かせる。きっと、本来は短気な人間なんだと思う。
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