愛したいから、美しくいて

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「あたしは美しいものが好きなの。だから桜は嫌い」 「……ふふ、わからないって顔してるわね。別にいいわ、皆そんな顔をするもの」 「あのね、唯一無二こそが美しいの。この世に一つしかない……そうでなければ美しいとは言えないわ。桜なんて、同じものが沢山並んでるだけのもの、あたしは美しいなんて認めない。むしろ醜いわ、あんなもの」 「なのに、皆が皆声を揃えて言うの。“美しい”って。信じられない」 「あたし、耐えられないの。美しくないものを美しいと讃える人たちも、それを甘んじて受け入れているものも。美しさは正しさと同じなのよ、それなのに……」 「だから考えたの。きっと、この世に本物の美しい桜が存在しないから、あんな偽物の桜を美しいと言うのだわ。ならあたしが作ればいいの、本物の桜を」 「それで、どうやってそれを作ろうかしら、って山を歩いていたの。普段桜が咲いてる場所なんて近寄りたくもないけれど、仕方のないことだわ。美しい桜を作るためだもの」 「そうしたら、見つけたの。あの子を。咲き誇る桜並木の中、唯一花を一輪も咲かせていないあの子。運命だと思ったわ」 「きっと、あたしが花を咲かせるために、あの子は裸でいたのよ。だから、あたしがあの子に一番美しい花を咲かせて、着飾ってあげようと思った。そうしたら、きっと美しいと思ったのに。なのにあの子ったら、蕾もつけやしなかった。酷い裏切りだわ」   「ようやく、桜を愛すことが出来ると思ったのに。あの子はあたしに応えてくれなかった」 「あの子のために三人殺したわ。土を掘るのは大変だったし、そもそも殺すのも凄く大変だった。でも、あの子が美しい花を咲かせてくれるのなら、それも我慢できたのに。それぐらい、あの子には期待してたのに」 「……桜は嫌いだわ、愛させてくれないもの」
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