ネックガード

3/9
前へ
/9ページ
次へ
  星弥の近くで着替えていた俺は、異変に気がつき話しかけた。トイレにこもっていた俺より着替えが遅いとなると、何か問題が発生したに違いない。体調が悪い、怪我をした、もしくは…… 「何か忘れた?」 「……っぽい」  恥ずかしかったのか、下を向いて耳を赤くする。体調が悪いわけではなくとりあえず安堵した。 「何を忘れたの」 「ネックガード」 「ああ、俺二つあるから貸そうか。古い方でよければ」 「マジ?ありがとう。助かる」  ホッケーは防具がそろっていなければ絶対に試合に出られない。そういう危険なスポーツだった。ネックガードは首に巻く防具で、パック――球技でいうボール――から身を守ってくれる大事な役割を担っていた。  それにしても、忘れものなんて星弥にしては珍しい。 「よし、急ごう。アップ始まるぞ」 「うん」  俺たちは連れ立って氷に上がった。  この日からだったと思う。俺たち二人はそれなりに、何気ないことでもしゃべるようになった。中学三年生ということもあり、主に進路についてか、ホッケーに関する話ばかりだったが、それでも出会ってから九年間で一番話をした一年間だったと思う。  残念ながら地元にアイスホッケー強豪の高校はなかった。ホッケー進学を考える人は北海道、北関東、関東へ進学する人が多い。地元に残るのは、ホッケーを趣味でいいと考えている人か、経済的に難しい人か、そもそもホッケーでの進学は興味がない人、まあ考え方は人それぞれだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加