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星弥の近くで着替えていた俺は、異変に気がつき話しかけた。トイレにこもっていた俺より着替えが遅いとなると、何か問題が発生したに違いない。体調が悪い、怪我をした、もしくは……
「何か忘れた?」
「……っぽい」
恥ずかしかったのか、下を向いて耳を赤くする。体調が悪いわけではなくとりあえず安堵した。
「何を忘れたの」
「ネックガード」
「ああ、俺二つあるから貸そうか。古い方でよければ」
「マジ?ありがとう。助かる」
ホッケーは防具がそろっていなければ絶対に試合に出られない。そういう危険なスポーツだった。ネックガードは首に巻く防具で、パック――球技でいうボール――から身を守ってくれる大事な役割を担っていた。
それにしても、忘れものなんて星弥にしては珍しい。
「よし、急ごう。アップ始まるぞ」
「うん」
俺たちは連れ立って氷に上がった。
この日からだったと思う。俺たち二人はそれなりに、何気ないことでもしゃべるようになった。中学三年生ということもあり、主に進路についてか、ホッケーに関する話ばかりだったが、それでも出会ってから九年間で一番話をした一年間だったと思う。
残念ながら地元にアイスホッケー強豪の高校はなかった。ホッケー進学を考える人は北海道、北関東、関東へ進学する人が多い。地元に残るのは、ホッケーを趣味でいいと考えている人か、経済的に難しい人か、そもそもホッケーでの進学は興味がない人、まあ考え方は人それぞれだった。
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