エピローグ

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 ベッドの上に丸まった母を見下ろして微笑む。 「母さん、ここに置いておくね」  卵をひとつ、ポケットから取り出し枕元に置いた。この病室に来る度、こうして卵をひとつ置いていく。 「今度こそ産まれてくるといいね。新しい兄さんが」  僕はそう言って病室を後にした。帰り道にふと思う。いつも置いていく卵、あれはどう処分されているのだろう。看護師さんが片付けているのだろうか。それとも……あの真っ白なシーツにくるまった母が温めてでもいるのだろうか。中から兄が産まれてくると信じて。想像すると何だか可笑しくなって僕はくつくつと嗤う。そして心の中で妻に謝った。 ――ごめんな、僕はもうすっかり(ゆが)んでる。 了
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