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「あなたはね、卵から産まれたのよ」
母は大真面目にそう言った。
「卵?」
当時小学一年生だった僕はわけがわからず首を傾げる。卵ってあの卵だろうか。白くてつやつやしたやつ。
「ええ、そうよ。スーパーでね、パックに入った真っ白な卵を買ったの。あなたはその中のひとつから産まれてきたのよ」
三つ年上の兄、圭太が「それ、安い卵じゃん」と言って嗤う。
「母さん困ってしまって。だって人間じゃあオムレツにもできない、ゆで卵にもならない。そうでしょ?」
本当に困ったような顔で母は言った。
「だから仕方なく育てることにしたの」
虚ろな目をした母がため息をつき、圭太がアハハと嗤う。それからしばらくの間、僕は兄から〝卵の子〟と呼ばれその度に母は虚ろな嗤い声を立てた。
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