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「うわ、そんなこと言われてたの? 遼ちゃんよく我慢してたね」
この日は結婚記念日で、妻が腕によりをかけて作った料理に舌鼓を打ちながらちょっと高級なワインを楽しんでいた。ちょっと飲み過ぎたのかもしれない。いつもなら決してしないはずの話をしていた。僕の、子供時代の話。
「母さんはちょっと変わった女性だったからね」
苦笑する僕に妻は「いやいやいや」と大げさに首を横に振る。
「変わってるとかそういう問題じゃないよ。でもまぁよく歪まず成長したねぇ。偉い偉い」
不意に身を乗り出して僕の頭を撫でる妻。
「おいおい、もう三十歳にもなるオジサンにそりゃないだろ」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
「でも知らなかったよ。お兄さんいたんだね。ご両親が離婚してお義父さんとは音信不通、お義母さんは体を悪くして入院してるってのは聞いてたけど。面会謝絶で会えないんだったよね、お義母さん」
首を傾げる妻に僕は「うん」とだけ言って目を伏せる。自分から子供時代の話をしてしまっておいて何だがこの話題はあまり楽しいものじゃない。そんな僕の気持ちを察したのか妻はさりげなく話題を変えた。いい伴侶を持ててよかった、心からそう思う。
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