第1話

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第1話

 あれあれ? おかしいぞぉ~?  と、思っているのは私、マリアンヌと申します。  マリアンヌ・ゼロス伯爵令嬢であった私は、諸般の事情によりネロ・フィフス殿下と結婚いたしました。  裏取引アリのドロドロの政治劇に巻き込まれた私は、伯爵令嬢という脆弱な立場でありながら、あれよあれよという間に未来の王妃となる立場へと上り詰めてしまったのです。あら大変。  フィフス王国の王位継承第一位であるネロ殿下にしてみたら、なぜに伯爵令嬢なんぞを娶らねばならんのだ? と、思われたことでしょう。ご愁傷様でございます。  でもね。結婚するにあたり「キミを愛することはない」って釘刺されちゃったのよ、私。かわいそうでしょ?  私なんかを嫁にしなきゃいけなかったネロ殿下には同情するけど、定番の「キミを愛することはない」をかまされちゃった私としては、なんだかなぁ~って感じなわけよ。  愛されることはないわけだから、ある種、フリーダム。  しかも、お金はあるわけですよ。権力もね。そりゃもう何でもし放題、毎日が大騒ぎさ~、って感じで過ごせると思うでしょ。お金があって、権力もあって。時間もあったら、アナタ何します? 私はねぇ~……って感じでウッキウキのワックワクっすよ。ねぇ、ねぇ、何する~?  まぁ、もちろん貴族ですし。そもそも、未来の王妃となるわけですから。あまり品位を欠いたことはしてはいけません。してはいけませんけれど……後宮の奥に引きこもって、アレコレしててもいいわけですよ。えー、そしたらナニしましょう? 綺麗なお嬢さんたちを集めて、着せ替え人形にしちゃいましょうか? それとも、孤児院巡りをして、不遇なお子たちを幸せにしちゃいましょうか? 見込みのある子は側仕えにして教育と出世の機会を与える、なんてのもいいわよね。  子供もいいけど大人もね、と、ばかりに高齢者への再教育とか、技術継承や歴史継承のために何かするのもいいわぁ~。紙芝居とか作って貰って、それを持って全国を回るというのも楽しそうでしょ?  などと、色々と考えていたわけですよ。  とはいえ、生涯を通して誰からも愛されない人生というのもちょっと……ってのもねぇ。うん。ちょっと複雑。  そんな不満やら不安やらを抱えた結婚。もう式典だけで疲れた疲れた。アレだね、王族ってヤツは体力要るね。私なんてしがない伯爵令嬢だから、ついていけない。ヨロヨロですわよん。  でも、ヨロヨロしながらも務め上げたのよ、褒めて? ねぇ、褒めて? みたいな感じ。やり遂げた感、半端ない。キレイキレイ言って貰って嬉しいけど、そりゃ、あれだけ手間かけたら綺麗にもなるわ。うん。金も手間も半端なくかかってるから。国家の威信がかかってるから皆さん気合入ってるし。こっちはお飾り予定だから、イマイチ盛り上がってなかったけどね。  おかげで警備の影ちゃんと仲良くなれたからいいけど。影ちゃんって誰かって? アレよ、アレ。影から偉い人達を見守っている、影の者ってヤツよ。もちろん何人かいるけどね。老若男女って感じで。必要に応じて紛れ込んでるの。  まぁ、私が影ちゃんたちと仲良しなのは、実家のせいもあるけどね。実家がろくでもないから、影ちゃんたちを派遣している組織と仲良しなのよ。お父さまは、陰の実力者なんだ、とか言ってましたわ。実力あるなら影に隠れず、爵位も伯爵じゃなくてもっと高い所を狙えばいいのにね、と、私は思いましたけどね。  まぁ、いいわ。実家は、もう出ちゃったし。もっとも結婚したところで実家は実家なんで。必要に応じて力は借りる予定ですけども。ですけども、そこはそれということで。  私は実家から離れてひとりで悠々自適。一通りの祭事が終わったら、そこで私は愛はないけどフリーダムな生活に入る予定だったのよね。  平穏な日々。退屈でもしゃーない。贅沢三昧してやろう。  ……そんな風に思っていた時期が私にもありました。でもね。なんか、風向きがオカシイのよ。 「マリアンヌ、もっとこっちにおいで」  甘いマスクに甘い声。地獄の貴公子とか呼ばれていたネロ殿下はどこいった? なんか、私、溺愛される方向に流れているみたいなんですけど。  全ての式典が終わり、今からは二人にとってのクライマックス、初夜のお時間がやってまいりました。でもさー。お飾り妻とか、白い結婚の予定だったから、この事態は想定外。豪華な夫婦の寝室で、私は冷や汗をダラダラと流しております。  そりゃね。キラキラ金髪、バッサバサのまつ毛に囲われた透き通った海のような青い目、ギリシャ彫刻のように整った顔、均整のとれた体に程よくついた筋肉、それを覆う滑らかな白い肌。身長は高くて私の体をすっぽり覆ってしまうなど素晴らしく魅力的な男性にですよ? 甘く呼ばれてご覧なさい? そりゃ、自ら流れに乗ってやろうという気にさせるモノは十分にありますわよ。ええ。  しかも、あれよ。将来の国王だから。金も土地も持っているから。地位も名誉もあるから。スパダリ中のスパダリみたいな存在だから。そりゃ、私も悪い気はしないわ。  ……んー、でもね。「キミを愛することはない」って言われちゃってるからね? 溺愛とかされても、今更だからね? なんなの、この人? って気持ちが捨てきれないからね? どうしたもんかなー、とか、思っちゃいます。 「どうしたの? 私のことが嫌い?」 「……」  だからさ。なんでお前は自分の言った事、忘れられんの? って話しじゃん?  お前さ、私に言ったよね? 「キミを愛することはない」って。ハッキリ言ったよね。  そんなヤツにさ。 「ほら、フルーツを食べさせてあげよう」  とか、されてさ。安心して甘えられんのかって話よ。 「んー? イチゴは苦手だったかな?」 「……」  いえ、イチゴは大好きです。  どちらかというと、苦手なのは貴様の態度だよ。 「キミの髪、サラサラしていて気持ちいいね。銀色でキラキラしていて綺麗だし」 「……」  いいや、お前。出会った頃、銀髪じゃなくて白髪っつーたよな? 白髪の童顔ババァ、みたいな悪口陰で言ってたって聞いたぞ。王国が抱えている王太子付きの影に。私は無駄に人脈が広いのだ。だから王太子付きの影からの忠告なんかも聞けちゃうのだ。 「大きくて赤い目もカワイイね。美味しそう」 「……」  いや、だから。お前、赤い目なんて不吉、とか言っちゃったんだろ? 影ちゃんから聞いたぞ? いや、いいけどね。白髪に赤い目で不気味ちゃん、とか、小さい頃からよく言われていたし。  良いよ、別に。言いたければ言えばいいけどさ。それは距離をとれる相手にすべきことでさ。近しい間柄になりたいんだったらさ。裏と表で言うこと違うとか、やっちゃあかんリストに入ってると思うんだよね。 「ねぇ、キスしていい?」 「……」  ダメに決まってるだろっ。キモイ。キモイよ、お前。なんか悪い薬でも盛られたんか?  いや、マジで盛られた可能性はあるけれど。なにせ王家だし。初夜だし。  世継ぎ作らせる気満々かもしれん。かもしれんが……その役目。私のではないでしょう? 側室に産ませるって言ってたよね? だから安心して下さい、って言ってたよね? 何でそんな変なムードだしてくんの?  キモイ、キモイ、キモイ。  影ちゃん助けて~。  なぜ、こんな事になってしまったのか?   自業自得と言えば、そうなるのかもしれないが。だってあの時には、そうするしかないと思ったんだよ仕方ない。  話は結婚前にさかのぼる……。   百歩譲って私が悪かったのかもしれないが、絶対に認めないからなっ!
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