父の味、母の味、私の味

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午後五時、仕事が終わる。 真里の会社は繁忙期以外はほとんど残業がないホワイト企業だ。みんな五時になると仕事が終わったことに喜びながらパソコンの電源を落とし、帰って行く。 「先輩、お疲れ様です!お先に失礼します!」 「お疲れ様」 後輩にそう返した後、真里も立ち上がり鞄を手にする。必要がないのに会社に残っていると、上司から色々と言われてしまう。だが、暗い一人暮らしの部屋に帰る気分でもなく、真里は当てもなくただ街をどこかフラフラとした足取りで歩いていた。 乗ったことのない電車に揺られ、全く知らない駅で降り、ブラブラと歩く。足が疲れてきたため、ブランコとベンチしか置かれていない公園に入り、ブランコに座った。 ブランコを何も考えないままぼんやりと漕ぐ。すると、真里の頬に冷たいものが当たった。 「えっ?雨?」 天気予報では一日中晴れだと言っていたのに、いつの間にか空は灰色の空に覆われ、降り始めた雨はどんどん強くなっている。真里は慌てて公園を出たものの、ここがどこなのかわからず、雨宿りできそうなお店なども近くにはない。 「どうしよう……」
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