父の味、母の味、私の味

5/9
前へ
/9ページ
次へ
こうなることなら、真っ直ぐ家に帰っていればよかったと今更ながら後悔が押し寄せる。真里は路地に入り、雨宿りできそうな店はないかと辺りを見回しながら歩いた。 「ここ、レストラン?」 目の前に現れた建物に真里は足を止める。木造建ての大きなレストランらしき建物があった。木でできた看板には「Buono」と書かれている。恐らく、このレストランの名前だろう。 レストランの店内には明かりがついており、迷うことなく真里は中へと入る。このレストランに絶対に入らなくてはならない、何故かそう思ったのだ。 「いらっしゃい。……あら、そんなに濡れて!」 レストランの奥から姿を見せたのは、真里より少し年上と思われる女性だった。雨で全身ずぶ濡れの真里を見て、慌てた様子で白いタオルとカップにスープを入れて持って来る。 「とりあえずこれで体を拭きなさい。スープはサービスよ」 「あ、ありがとうございます……」 濡れた髪などをタオルで拭いた後、まだ湯気を立てているスープを真里は見つめる。カップの中に入っているのは、玉ねぎがたっぷり入ったオニオンスープである。 食欲はない。だが、せっかく出してもらったものを残すのはどうだろうか。そう思いながら真里はスープを一口飲む。刹那、目を大きく見開いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加